在宅という就労環境を会社はどのように整備するのか?- 在宅勤務 その2

在宅という就労環境を会社はどのように整備するのか?- 在宅勤務 その2

前号に続いて、“在宅”と言う“就労環境”について考えてみます。

「情報通信技術を利用したテレワークの適切な導入及び実施のためのガイドライン」を引き続き参照しながら解説します。
ガイドラインは https://www.mhlw.go.jp/content/000539604.pdf を参照してください。

椅子と机についてのガイドラインをご紹介します。

会社が在宅勤務者に一律に椅子と机を貸与する事は現実的ではありません。
自宅における執務スペースの大きさは千差万別です。
また自宅は同時に社員にとって家族も含めて大切な私的空間でもありますので、例えば自宅家具のデザイン性とは相いれないような机や椅子を会社が一方的に運び込む事にも無理があります。

以下の諸点について注意喚起した上で、希望者には会社が備品として貸与するやり方が一般的のように思います。また事情あって希望しない社員に対しても、椅子と机の以下のガイドラインを念頭に健康面の配慮も忘れてはなりません。
ガイドラインでは以下の通りとなっています。(太字はPMP)

(2)情報機器等

ト 椅子
椅子は、次の要件を満たすものを用いること。
(イ)安定しており、かつ、容易に移動できること。

(ロ)床からの座面の高さは、作業者の体形に合わせて、適切な状態に調整できること

(ハ)複数の作業者が交替で同一の椅子を使用する場合には、高さの調整が容易であり、調整中に座面が落下しない構造であること。

(ニ)適当な背もたれを有していること。また、背もたれは、傾きを調整できることが望ましい。

(ホ)必要に応じて適当な長さの肘掛けを有していること。

チ  机又は作業台
机又は作業台は、次の要件を満たすものを用いること。
(イ)作業面は、キーボード、書類、マウスその他情報機器作業に必要なものが適切に配置できる広さであること。

(ロ)作業者の脚の周囲の空間は、情報機器作業中に脚が窮屈でない大きさのものであること。

(ハ)机又は作業台の高さについては、次によること。
a 高さの調整ができない机又は作業台を使用する場合、床からの高さは作業者の体形にあった高さとすること。
b 高さの調整が可能な机又は作業台を使用する場合、床からの高さは作業者の体形にあった高さに調整できること。

上記以外、騒音について注意事項もありますが、ご関心ある方は上記厚労省ガイドラインをご参照ください。

(4)その他
換気、温度及び湿度の調整、空気調和、静電気除去、休憩等のための設備等について事務所衛生基準規則に定める措置等を講じること。

この“その他等”を展開すると「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」が参考になると思います。この指針についてはhttps://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-21/hor1-21-1-1-0.htmをご参照ください。
事業主の講ずべき措置の主なものを列挙すれば、以下の通りです。(太字はPMP)

1  作業環境を快適な状態に維持管理するための措置

(1)  空気環境
屋内作業場では、空気環境における浮遊粉じんや臭気等について、労働者が不快と感ずることのないよう維持管理されるよう必要な措置を講ずることとし、必要に応じ作業場内に喫煙場所を指定する等の喫煙対策を講ずること。

(2)  温熱条件
屋内作業場においては、作業の態様、季節等に応じて温度、湿度等の温熱条件を適切な状態に保つこと。
(略)

(5)  作業空間等
作業空間や通路等の適切な確保を図ること。

2  労働者の従事する作業について、その方法を改善するための措置

(1)  腰部、頚部等身体の一部又は全身に常態的に大きな負担のかかる不自然な姿勢での作業については、機械設備の改善等により作業方法の改善を図ること。
 (略)

(4)  高い緊張状態の持続が要求される作業や一定の姿勢を長時間持続することを求められる作業等については、緊張を緩和するための機器の導入等により、負担の軽減を図ること。
(略)

3  作業に従事することによる労働者の疲労の回復を図るための施設・設備の設置・整備

4  その他の快適な職場環境を形成するため必要な措置

3ならびに4についての詳細は省略しますが、休憩室の確保、疲労やストレスに応じる相談室の確保、清潔で使いやすい等についての記載があります。

最後に、快適な職場環境の形成のためには、「継続的かつ計画的な取組」を必要とし、そこで働く「労働者の意見を反映」するとともに、「職場の環境条件についての感じ方や作業から受ける心身の負担についての感じ方等には、その労働者の年齢等による差を始めとして個人差があることから、そのような個人差を考慮して必要な措置を講ずること。」としています。

正直、「エライコッチャ!!」ですね。
ただし、どうせ、厚生労働省も「望ましい」としか言っていないとして、これらについて見てみない振りをすると、「テレワークを行う労働者についても、労働基準法に基づき使用者が労働災害に対する補償責任を負うことから、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害として労災保険給付の対象となります。」と厚労省が明示している通り、最悪は労災事故、そこからの民事上の損害賠償、あるいは企業への風評リスクに関わるインシデントにもなりかねません。
Compliance上は“望ましい”レベルでしかないとは言え、労働安全衛生法第71条の趣旨に立ち返れば、在宅という職場の環境を整えるのは、本来は会社の責務はずです。

これが欧米であれば、雇用という契約関係にある当事者(会社と労働者個々人)間の個別合意で割り切る事が出来まると思います。
残念ながら日本ではそう割り切る事はできません。
日本では細部まで法律でがんじがらめに規定する傾向があり、本件も、当事者合意では済まされません。
さりとて実際問題として在宅勤務者それぞれの自宅の職場環境までを会社が整備する事は、自宅がPrivateで重要な空間である事からも土台無理な話です。
厚労省の基本スタンスは、そこからくる“望ましい”というどっちつかずの対応であるという事は忘れないでください。

やや乱暴な結語ではありますが、言ってみれば、安衛法第71条から会社は就労環境整備の義務を負っているが、在宅勤務の場合は一人一人の自宅だから多めに見て欲しいという事だろうと考えています。これは法律論とは別に、マネジメントの観点から言えば、会社が一つ社員側に借りを作っているようなものだと思ってください。
在宅勤務の全体の仕組みを考える際、「一点社員に借りがある」というバランス感覚が大事なように思います。

次の機会には在宅勤務者の労働時間管理について検討したいと思います。

以 上