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2025.11.13

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柔軟な働き方の措置についての企業現場の混乱 その5 措置義務の解釈など – 改正育児休業法関連

10月から施行された改正育児休業法では、3歳から小学校就学始期までの子をもつ社員に対して、仕事と育児の両立支援のための柔軟な働き方を実現するため、企業は2つ以上の選択肢を用意して、社員はその内1つを選択できるとされています。 しかしながら、改正法に沿って育児休業規程を改訂し、それぞれの制度設計を行おうとした際に、様々な疑問が出ているようです。

これまでPMPは労働法の制定や改定に際して、各企業には、法律の各条文に加えて行政機関向けの法解釈を纏めた通達を根拠にして、具体的な対応方法や留意点をお知らせしています。その際には、それぞれの法律を所管する労働各行政の担当者とも様々な意見交換を重ねています。

今回の改正育児休業法に関する問い合わせについては、所管する都道府県労働局は、本省より発表されたQ&A通りの回答に終始していたという感想を持っています。- 各企業の疑問や質問は、各企業の事情も反映する等の事情からQ&Aに関連しつつも実際の「Q」とは違う内容の質問も多いのですが、これらに対して明快な回答は得られないのが現状のようです。 あるいは時間が経過すれば、事態はもう少し落ち着くのかもしれませんが、PMPではこの時点での各企業からの質問と行政からのコメントを参考に、Q&Aには明快な回答がない事項の対応方法についての情報を発信したいと思います。 第1弾(その1)として管理監督者問題、第2弾(その2)としてすでに導入済の制度と改正対応の関係、第3弾(その3)としてパートタイム労働者の対応、第4弾(その4)3歳未満の子を養育する労働者に対する“個別の周知等”について取り上げてきました。
今回は第5弾、シリーズ最後ですが、そもそも措置義務とは?について整理しました。

 改めて改正法を見ると、第24条では(小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置)として、“事業主は、その雇用する労働者のうち、その小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に関して、(略)それぞれ必要な措置を講ずるように努めなければならない。” と定められています。所謂 “措置義務” といわれるものです。
 我々人事が馴染のあった措置義務として、定年後再雇用のケースが思い起こされます。60歳定年社員の65歳までの継続雇用に関するもので、高齢者雇用安定法第9条の高年齢者雇用確保措置では、“定年(六十五歳未満のものに限る以下は略)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。” から始める措置義務です。

 65歳までの雇用確保の措置義務が法で定められた当時、巷間、よくあった議論は、措置義務とは、使用者は希望者に対して65歳までの雇用の仕組を設けなければならない ということであり、希望する社員全員を65歳まで雇用しなければならない ということではない!というものでした。その頃、労働局の担当官もこのような趣旨の指導を行っていた記憶があります。
しかしながら、今は様変わり。判例では、会社が60歳定年を迎え、希望する社員に対して65歳までの継続雇用を行わないと企業が敗訴する事例も珍しくありません。そのため、今は各企業では、この措置義務は希望者全員を65歳まで雇用保障しなければならないとの理解が広まっているようです。
今回の改正育児休業法の措置義務も、対象社員全員に企業が “仕事と育児の両立支援制度を適用しなければならない” と考える方もいる様です。
これは誤りです。

高齢者対応を解きほぐしましょう。定年再雇用拒否事件で会社が敗訴となった2010826日東京地裁判決の東京大学出版会事件では、定年退職者に対する再雇用拒否の意思表示を解雇権濫用法理(労働契約法16条)の類推適用により無効としていますが、その根拠は労働契約法とされています。この労働契約法は私法ですので、判例の蓄積により法解釈が形成されます。そのため、定年再雇用者の再雇用拒否問題は時間をかけて、希望者を全員雇用しないと企業は敗訴するという事態が形作られてきました。

さて今回の改正育児休業法の仕事と育児の両立支援、今は措置義務です。従って、企業はまずは制度設計に注力してください。
その上で今回の改正育児休業法についての行政担当者とPMP各コンサルタントとのやり取りをご紹介しましょう。
今回の柔軟な働き方を実現する措置の一つとして、「始業時刻等の変更」という措置があり、これは具体的には、「フレックスタイム」と「始業時刻・終業時刻の変更」の2つの制度に分かれています。
「フレックスタイム」。今回の法改正以前から、また育児支援対象者以外も含めた社員に広く導入済の企業は多いと思います。
一方で「フレックスタイム」制度は、利用する社員の自律性が求められ、特に時間管理がルーズな社員に「フレックスタイム」を利用させると、顧客からの求めのある時間に訪問しなかったり、社内会議の開始時間を守らなかったりするようなトラブルが生じかねません。そのため、PMPのフレックスタイム規則の標準形では、かかる社員にはフレックスタイムの適用を会社が一時的に中断したり、あるいは適用を除外する権限を付与しています。例えば、この様な社員から、仕事と育児の両立のためにフレックスタイム適用の申し出がある場合、企業は応じなければならないのでしょうか? 厚生労働省のQAには掲載されていない為、PMP独自の解釈ですが、会社の拒絶はOKと考えています。少なくとも、申し出に対し、会社が、その社員に今までフレックスタイムの適用の一時中断もしくは適用の除外を行っていた事由を再度明らかにして、同様の事態を惹起せる場合は直ちにフレックスタイムの適用を除外する旨の通知を行うことは妨げられるものではありません。要は会社はフレックスタイムという制度を持つという措置義務を果たしているが、フレックスタイムを申し出た社員はフレックスタイムを適用する要件を満たしていないと会社が判断したため、その適用を断ったというロジックとなります。

最後に、労働局担当官からは以下のような問い合わせが多いとのこと。これもご紹介しましょう。
仕事と育児の両立支援の措置候補の一つである「始業・終業時刻の変更」についての問い合わせです。
PMPの標準的な就業規則でも、労働時間の冒頭の条に、会社の標準的な始業時刻と終業時刻(例えば、始業時刻:午前9時、終業時刻:午後5時)を記載し、続けて「会社は必要に応じて始業時刻・終業時刻を繰り上げたり繰り下げたりすることがある」としています。今回の行政からの注意喚起は、この “繰り上げたり繰り下げたりすることがある” の規定をもって、今回の「始業時刻・終業時刻の変更」措置を講じたとはみなさないというもの。問題は“ことがある”との記載。「始業時刻・終業時刻の変更」を選択する社員の希望が必ず実現されることにはならないというもの。これでは措置義務を講じたとは言えないというもの。念のためですが、ご注意ください。

以    上

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