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2026.01.15

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裁量労働制 – 厚生労働省 労働政策審議会労働条件分科会での議論から –

新内閣発足直後、「働きたい人には働いてもらいたい」というような趣旨からの高市首相の裁量労働制の見直し発言がありました。昨年12月24日(クリスマスイブ!ですね)の厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会の資料を入手しました。

労働者側、使用者側、公益(学識経験者等)と纏められていた資料を若干組み替えて、テーマごとに、それぞれの発言を対比してみました。なお、太字表記はPMPによるものです。

☑ 裁量労働制の見直しについて
(労働者側)
 ・ 裁量労働制は長時間労働を助長しかねないため、その適用範囲の拡大や要件緩和を安易に行うべきではない。
(使用者側)
 ・ 裁量労働制は、特別な健康確保措置が設けられているほか、制度の濫用にならないような制度設計がされている。

 PMP:予想通りですが、裁量制の見直しには労働者側は明確に反対です。

 ☑ 国際競争力の視点からの裁量労働制
(使用者側)
国際競争力の向上や付加価値の創出の観点からも、働き手一人一人の能力発揮を促すことが我が国の課題であり、裁量労働制の拡充が必要。労使の対等かつ十分な協議や適切な健康確保措置、適正な報酬を条件とし、過半数労働組合との合意のもとで裁量労働制を適用するにふさわしい対象業務(例:プロジェクト型業務や他社の事業に関する企画、立案、調査及び分析の業務)の範囲を決められるような仕組みの導入の検討を行うべき。
(労働者側)
・ 国際競争力の向上は、産業政策等で対応すべきものであり、労働法制の緩和で実現すべきものではない。裁量労働制が本来の趣旨に沿った運用が徹底されることが重要であり、要件の緩和は行うべきではない。

PMP:労働者側は以前からの主張のようです。日本の労働基準法の厳格な労働時間管理による賃金額の決定ではなく、労働時間にはよらない結果・成果を重視する賃金額の決定が効率性にはプラスに働くことは、データを探す以前にロジックで考えれば自明の筈です。労働者一人当たりの生産性指数の国際比較では、欧米では当然のエグゼンプト(Exempt)といわれる日本の裁量労働制よりも幅広い対象者(要はホワイトカラー層が対象)を持つ国が日本の遥か上位に並ぶという実態があります。失われた30年の責任の一端は、こうした労働組合側の見解にあると思えてなりません。

 ☑ 裁量労働制の現行の仕組み
(使用者側)
・ 現在の裁量労働制は対象業務が厳格に規定されているため、企業で適用可否を判断することが難しく、また、手続も煩雑である。適用労働者の満足度や健康状態の認識の調査結果も勘案しつつ、裁量労働制の見直しについて必要な議論を進めるべき。
・ 中小企業では複数の業務を兼務することが多く、非対象業務との兼務が一部でもあると適用が認められない。主たる業務が対象業務であり働き方に裁量がある労働者は適用可能となるよう検討すべき。
・ 本人の満足度や業務遂行の裁量程度が高く、総じて適正な運用がされていることを踏まえると、法令の運用の徹底の必要性と制度の見直しの必要性は分けて議論することが適当。労働生産性の向上と、長時間労働、過労死撲滅の両方を見据えた真摯な議論をしていく必要がある。 
(労働者側)

・ 通常の労働時間規制の逸脱を認めるものについての手続や運用が厳格であることは当然である。
・ 労使合意により対象業務を決定できる仕組みは、労働基準法の強行法規性を放棄することにも繋がりかねない。
・ 非対象業務は使用者の都合で業務量や労働時間が変動するものであり、兼務をしている場合は裁量労働制を適用すべきではない。

PMP:裁量労働制を導入している企業の割合は専門業務型で2.2%、企画業務型で0.6%(厚生労働省令和4年就労条件総合調査)。導入企業は日本では例外的とも言えるのが実態です。繰り返しですが、営業などのホワイトカラーにはExemptといわれる労働時間規制から外れる働き方が当たり前の国々で働くビジネスパーソンと、30年以上、厳格な労働時間管理下で働き続けてきた日本のサラリーマン・サラリーウーマンを比べて、一人ひとりの競争力に差がつくのもやむを得ないことのように思います。
使用者側が、生産性向上と労働者の健康管理=長時間労働と過労死撲滅、それぞれを見すえて議論すべきという方向性こそが、当然ではないでしょうか。

☑ 裁量労働制 行政が準備したデータについて
(労働者側)
・ 業務従事年数が少ない、裁量や適切な処遇が確保されていないデータが見られた。2024年度に見直しの内容が施行されたばかりであり、健康・福祉確保措置の強化、本人同意や同意撤回の手続等の適正運用の徹底を着実に進めていくことが重要。労働者の健康確保や豊かな生活の実現に繋がる議論に注力すべき。
(公益)
・ 裁量労働制調査のデータを利用した厳密な解析からは、裁量労働制の適用の有無だけでなく、現場レベルでの裁量の有無が労働時間や睡眠、満足度等を強く左右することが明らかとなっている。今後の検討に当たっては、裁量労働制の適用有無のみを議論するのではなく、裁量の度合いが現場レベルでいかに担保されるかという点に着目して議論すべき。

PMP:安倍内閣当時にもこの行政が準備したデータの誤りから、裁量労働緩和の労基法改正案が首相指示により外されたことがありました。そんなことが彷彿とされる議論です。使用者側の意見は見当たりませんでした。
また労働者側のいう2024年の裁量労働制の見直しとは、適用者への個別同意の取得と随時撤回の権利付与が中心。適用対象の緩和は専門業務型にM&A業務が加わりましたが、当時分科会の一人の委員の影響なのか(この点についてのはっきりとした事情は分かりません。無責任な憶測?です)非金融機関のM&A業務は対象外という、極めてマイナーな見直しでした。
最後に、公益側見解の “現場レベルの裁量の有無” という視点は裁量労働制の適切な運用では極めて重要なポイントであると思います。

以    上

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