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2019.12.26
- 労働判例
87時間分の定額残業代問題を容認 – 東京高裁 平31.3.28. –

平成29年に地裁判決がありその控訴結果です。一審被告は結婚式場運営会社(A社としましょう)。そこで勤務し、営業並びにウエディングプランナー業務に従事する社員に支払われる職能手当は、「時間外割増、休日割増もしくは深夜割増として支給する手当」と定義されており「約87時間分の時間外労働等の対価相当額」となっているというものです。
A社の職能手当は、世間では固定時間外手当とか定額残業代と言われるもので、要は、その月の残業等が87時間相当額を超える場合はその超過する残業代等が追加に支給されるが、その月の残業等が87時間相当額未満の場合はこの職能手当は減額されずに定額として固定的に支給されるという体系です。
定額残業代についてはすでに最高裁で、通常の労働の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分が判別でき、かつその割増賃金が労基法第37条を下回らないという枠組みは容認されています。
今回は、「確かに、月約87時間は、平成10年12月28日労働省告示第154号所定の月45時間を超えるものであるが、雇用契約に対して強行的補充的効力を有するものではない上、本件特約は、時間外労働等があった場合に発生する時間外割増賃金等として支払う額を合意したものであって、約87時間分の法定時間外労働を義務づけるものではない。」としています。
まっとうな判断です。何も、45時間を超える固定時間外手当を導入したからと言って、会社が社員に45時間を超える残業を義務付けているものではありません。ただし、緊急対応等でやむを得ない場合には45時間を大きく超える残業をしなければならない事態を想定して、そのような場合でも残業代をできるだけ変動費化せずに済めば、企業としてはありがたいものです。資金繰りの安定化には寄与するはずです。ご存知の通り欧米では、いわゆるホワイトカラー職種に残業代は支給しません。日本でも今年の4月から高度プロフェッショナル制度が導入され、一部の職種については残業代の支給は不要となりましたが、その適用範囲はあまりにも限定されており、実際のところ大半の企業ではほとんど利用できません。
顧問先に多くの外国企業を抱えるPMPの経験を振り返ると、外国本社の人事から労基法第37条の残業の取り扱いについて疑問視されることは珍しくありませんでした。労基法第37条の残業という日本の常識は外国にとっては非常識に映ります。
45時間を大きく上回る固定時間外手当による給与体系は、日本と外国の残業代の認識のギャップを上手に埋める事の出来る使い勝手の良い知恵であるように思います。とは言え、固定時間外手当導入後も労働時間管理はきめ細かく実施し、過重労働防止も並行して必ず対応してください。また、例えば入社間もない新卒新人にも、この固定時間外手当体系を適用するのも、法違反とは言えませんが、PMPは勧めません。入社後ある程度の職務経験を積んで、自己責任で業務を遂行できるようになった社員から固定時間外手当体系を導入すべきです。固定時間外手当体系を有効に活用することで、労使ともに満足度の高い働き方、マネジメントが実現できるように思います。
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