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2020.12.25
- 労働判例
同一労働同一賃金問題2020年10月13日・15日の最高裁の判断を検証する – その3

先月2回にわたり、同一労働同一賃金の最高裁判例を分析しました。
年末押し迫りましたが、この最高裁判決を受けての人事労務面の実務に際して、新しく何をすべきか、またこれまでの対応のどの点に注意をすべきか、を纏めてみました。PMPとしての独自見解ですので、ご質問ばかりでなく、ご意見もお気軽にお寄せください。
以下箇条書き、かつランダムに記載していきます。また、最高裁判決に加えて、先の第203回臨時国会に提出され現在閉会中審査の「短時間有期雇用労働法改正法案」で示された厚生労働省の考え方にも触れ、それも根拠として説明して参ります。
1.先日「最高裁判決は労働契約法旧第20条に対する判断であり、現在は同一労働同一賃金問題は短時間有期雇用労働法(第8条)に “引っ越し” ている。法が異なるので、最高裁の判断はそのまま運用できない」との見解に接しました。発言者は内閣府の同一労働同一賃金ガイドラインの作成を主導した学者。
PMPはそうは思いません。短時間有期雇用労働法は労契法を承継している(平成30年4月25日衆議院議事録)。さらに現在閉会中審査の短時間有期雇用労働法の改正法案を踏まえれば、厚労省の同一労働同一賃金ガイドラインも早晩見直されると予想します。
今回の最高裁判決は人事実務上では大変重要なものです。
2.最高裁では、賞与、退職金については、労務の対価の後払い、功労報償、将来の労働意欲の向上、有為の人材の確保等の趣旨を理由とする支給の有無の違いについては、“不合理であると認められるものに当たらない” とされました。これに基本給も加え、処遇体系の中核となる基本給・賞与・退職金については不合理性は認められ難い - 会社有利である事がはっきりとしました。
3.日本郵便の最高裁判例から、各種手当、福利厚生は個別にそれぞれの労働条件の趣旨に照らして考慮する事が求められます。
① 病気休暇、休職、家族手当(注:家族手当は厚労省の同一労働同一賃金のガイドラインでは示されていません)、住宅手当は “(正社員の)継続的な雇用の確保” を目的とする事は認められたものの、契約更新を繰り返した有期雇用者は “相応に継続的な勤務が実態として見込まれる” とされ不合理と認められました。
本来、労働条件は雇用開始時点で労使双方の合意により決定され、雇用契約が締結されるべきものです。雇用契約の際に、その有期雇用者が長期継続雇用になるという見通しも立ちません。中には契約更新を繰り返し、その結果として偶々長期継続雇用となる契約社員もいます。だからといって、その人についてのみ最初の雇用開始時点に遡って労働条件を見直したりはもちろんできません。人事労務の実務の観点で言えば、裁判官のロジックには疑問点が残ります。とはいえ、最高裁がこのような判断であれば、実務対応としてのお勧めは、1) 一定の勤続年数経過後の契約社員にこのような処遇を認める 2) 正社員とは異なる処遇水準とする という工夫の検討だと思います。
②夏期冬期休暇、年末年始勤務手当、祝日給は正社員・有期雇用者の区別なく認めなければなりません。それぞれの手当の支給目的、福利厚生の趣旨を考えれば、継続的な雇用の確保の目的として説明することは難しいと思います。
4.原告選択説(比較対象の正社員は原告が選択できる)については、最高裁が認めたと解釈する意見が多いようです。このままでは非正規社員が勝手に自分に有利な正社員の労働条件と比較して訴えることができる、と独り歩きしてしまうことを心配しています。例えば、大阪医科薬科大学事件では裁判官は原告の主張する特定の正社員B氏との比較を退け、原告と無期雇用職員全体との比較対象を行い判断を下しています。
さらに改正法案までを考えれば—
5.掲記の「短時間有期雇用労働法改正法案」では第8条の標題が「不合理な待遇の禁止」から「合理的と認められない待遇の禁止」に変更されています。要は、不合理である事の立証から、合理的でないとは言えないという事の立証に今後変わっていきます。総じて会社有利の変更と言えます。会社の同一労働同一賃金の説明義務も、これに沿ったロジックをご用意ください。
6.同様に第8条での均衡待遇の判断根拠として職務の内容とともに明記されていた “職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情” が削除され、“その他就業の実態等” と言う表現に改正されます。
第8条に第2項が追加され、“賞与、退職手当その他の待遇であって賃金の後払又は継続的な勤務に対する功労報償の性質を含むものについては、当該待遇を “当該性質を有する部分 とその他の部分に区分して、それぞれの部分について適用するものとする” と言う表現が盛り込まれる予定です。この “当該性質を有する部分” とは「その他 就業の実態等のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的並びに勤続期間に照らして適切と認められるもの」とされるようです。
要は、賃金の後払いまたは継続的な勤務に対する功労報償目的の労働条件に付いては、その内容、目的、勤続期間について特に留意して説明責任を全うする事が求められるようになると思います。
以 上
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