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2026.03.06

  • 労働判例

最高裁から差し戻しとされた名古屋自動車学校事件の高裁判決

最高裁から差し戻しとされた名古屋自動車学校事件の高裁判決が2月26日に出されました。新聞等でも大きく報道されたため、読者諸氏でもご関心のあるテーマだと思います。

 最高裁では、「当該使用者における基本給及び賞与の性質やこれらを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである」「正職員と嘱託職員である被上告人らとの間で基本給の金額が異なるという労働条件の相違について、各基本給の性質やこれを支給することとされた目的を十分に踏まえることなく、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、その一部が労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるとした原審の判断には、同条の解釈適用を誤った違法がある。」として高裁に差し戻し、改めて高裁にこの点での事実判断を行わせようとしました。

これにより、これまで同一労働同一賃金問題では、手当等はそれぞれの項目ごとに同一性の判断が行われていましたが、この判断に基本給が加えられるとして、注目されていました。

その結果が2月26日に出たものです。
再雇用後の基本給が正職員の6割を下回るなど大幅な減額について、不合理な待遇格差にあたると認め、自動車学校側に計約336万円の支払いを命じました。
報道によれば、自動車学校の指導員の基本給額のばらつきは事務員に比べて小さいことなどから、基本給は、指導員という仕事内容に対する職務給としての性質の割合が高いと判断した。嘱託職員の基本給も「同質だと言える」と判断同じ指導業務をする若手を大きく下回ることは「不合理性を基礎づける」と指摘した。
ただし、不合理となる水準は、差し戻し前の判決が定年時の60%を下回る額を挙げたのに対し、「事情を総合した」として、原告の1人に対し10万円(定年時の約55%、もう1人に対し95千円(約57%)とした。

さてこの高裁判決。労働法学者や弁護士などの見解がこれから出されると思いますし、また最高裁に上告される場合、上告棄却されないのであれば最高裁の判断がどうなるのか?興味深いところです。

 定年後再雇用の契約社員の同一労働同一賃金問題といえば、長澤運輸事件が思い出されます。長澤運輸事件では、この契約社員が定年後再雇用者であるという事情から、退職金が支給されている点、管理業務や付随業務がなくなる等定年後の職務内容が軽減されている点も評価された上で、有期雇用パートタイム労働法第8条の “業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情” の中でも、定年後再雇用者については、“その他の事情” に該当すると認め、基本給の性質等の議論に深入りすることなく、定年前給与の21%減額という会社対応を合法と認めました。

今回の名古屋自動車学校事件でも、定年時の退職金の支給はあったようですし、定年前には義務付けられていた会議出席は再雇用後は出席不要となった等の職責の変化もあったものの、そこには大きく立ち入らずに、自動車学校指導員の業務内容=職務、また他の事務職部門と比較すると給与のバラツキが相対的に低いことなどから、基本給には職務給の色彩が強いという踏み込んだ判断をしています。

PMPが素朴な疑問として思うのは、職務給の色彩という判断です。
給与、特に基本給を職能、職務、年功、年齢等々のどのような構成で設計するかは各企業の自由です。その企業の給与体系を確認もせずに、裁判官が、その時点での給与額のバラツキというたまたまの外見的事象を根拠に、その会社の給与思想に軽々しく入り込むことには疑問を覚えます。

名古屋自動車学校の賃金規定や給与体系マニュアルなどで自動車学校指導員の基本給は職務給であるという判断が下されていたのであれば兎も角として、何もない状況で裁判官がかかる判断を行うことの妥当性については、もっと慎重な議論が必要なのではないでしょうか。
報道では、裁判官の職務給判断を “画期的” と称した労働法学者のコメントが掲載されていました。このコメントにもPMPは恐縮ながら “軽さ” を感じます。
今の日本の潮流をみると、職務給ではなく “ジョブ型” 給与という、従来の給与体系に職務= “JOB” の色彩を加える  という調整が増えているように思えます。
欧米や日本以外のアジア諸国でも当然の職務別労働市場に支えられた職務給は存在しません。そもそも日本では職務別労働市場は存在しません。
職務別の賃金データを収集してそれをグラフ化することはできますが、データに職能給体系の賃金額が単に職務別データとして計上されていることは珍しくありません。またその職務別賃金データにも年齢給の色彩が強いことも観察されます。
そもそも新卒者は即戦力にはならず入社後のOJTを中心とした研修でようやく戦力となる日本で、欧米のような職務給が導入されるはずもありません。
せいぜいが、従来の職能賃金体系の中に、職務別の手当を盛り込んだ Hybrid型の賃金だろうと思います。またそれが日本型の新しい賃金体系の在り様なのではないだろうかとも思います。

もともと、日本版の同一労働同一賃金は、欧米で一般に通用している「同一Jobには同一の賃金水準」という思想とは異なる、正社員と有期契約社員との同一性という全く違う法体系ではあります。日本固有の法律をもととする司法判断ですので、定年退職という事情をその他の事由にすることの妥当性には首肯しますが、今回の高裁判断、個人的には、疑問符が付く内容となっています。

見方を変えると、正社員としての定年制は60歳のままとして、高齢化対応を定年後再雇用という正規労働者から非正規労働者への雇用区分変更を法が是とした日本的体系が、定年後再雇用者の同一労働同一賃金裁判で、諸手当や休職やその他福利厚生を離れて基本給や賞与となると、労働の同一性議論がすっきりしなくなる大本の原因であるように思います。
法が60歳を境として雇用区分の変更を是としているのであれば、雇用区分の変更に伴う基本給差の合理性・非合理性の線引きなど、そう簡単にはできそうもありません。
乱暴な話ですが、定年後の給与が79%(長澤運輸)であれば合理性の範囲内であり、55~57%(今回の名古屋自動車学校)を割り込むとNGだというおおよその範囲が今はあるようです。
定年後の給与が職務給だろうと職能給だろうと、何であろうとも・・・  というあたりが実務上の留意点なのでしょうか。あまり意味があるものとも思えません。

まずは1~2か月後あたりには出てくると思われる、著名労働法学者や弁護士の見解を楽しみにしたいと思います。
動きがあればPMP Newsでフォローします。

以    上

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