柔軟な働き方の措置についての企業現場の混乱 その2 すでに導入済の制度と法改正対応 – 改正育児休業法関連

10月から施行された改正育児休業法では、3歳から小学校就学始期までの子をもつ社員に対して、仕事と育児の両立支援のための柔軟な働き方を実現するため、企業は2つ以上の選択肢を用意して、社員はその内1つを選択できるとされています。
しかしながら、改正法に沿って育児休業規程を改訂し、それぞれの制度設計を行おうとした際に、様々な疑問が出ているようです。
これまでPMPは労働法の制定や改定に際して、各企業には、法律の各条文に加えて行政機関向けの法解釈を纏めた通達を根拠にして、具体的な対応方法や留意点をお知らせしています。その際には、それぞれの法律を所管する労働各行政の担当者とも様々な意見交換を重ねています。
今回の改正育児休業法に関する問い合わせについては、所管する都道府県労働局は、本省より発表されたQ&A通りの回答に終始していたという感想を持っています。- 各企業の疑問や質問は、各企業の事情も反映する等の事情からQ&Aに関連しつつも実際の「Q」とは違う内容の質問も多いのですが、これらに対して明快な回答は得られないのが現状のようです。
あるいは時間が経過すれば、事態はもう少し落ち着くのかもしれませんが、PMPではこの時点での各企業からの質問と行政からのコメントを参考に、Q&Aには明快な回答がない事項の対応方法についての情報を発信したいと思います。
第1弾(その1)として管理監督者問題 について取り上げました。
今回は第2弾、改正法で示された5つの選択肢の内、養育支援休暇を除く4つの選択肢(① 始業時刻等の変更、② テレワーク等、③ 保育施設の設置運営等、④ 短時間勤務制度)のうち2つ以上の制度を導入済の企業は、この法改正に如何に対応すべきかという点を整理したいと思います。
これらの柔軟な働き方を実現するための諸制度は、法律を超える対応としてすでに導入済の企業は珍しくありません。法を超えた対応というと、先進的な大手企業のことと思われるかもしれませんが、例えば、④ 短時間勤務制度は、この社員の役割を考えれば育児離職は何としてでも回避したいという事情に直面していた中堅・中小企業では、3歳を超えたお子さんを持つ社員にも本制度を適用済という事例も結構多いという実感を持っています。① 始業時刻等の変更の一つであるフレックスタイムやテレワークも、コロナ禍を契機に、育児を抱える社員に限定することなく広く活用されている企業も多い筈です。社員のための福利厚生プログラムの充実を狙って、第三者による福利厚生プログラムを導入、その中にベビーシッター援助(③ 保育施設の運営等の一つ)が含まれているという事例もよく聞かれます。
そのような企業にとって、今回の法改正は “今更!!” 感が強く、素朴な疑問として、すでに導入済、規定化も済んでいるこれらの制度を、今更敢えて育児休業規程にどう記載すれば良いのか?戸惑われる声も多く聞かれました。
改正法施行時期の10月1日に合わせて育児休業規程に、3歳から小学校就学始期までの子をもつ社員に対する「仕事と育児の両立支援のための柔軟な働き方を実現するための措置」としての規定を追加記載する必要があるのでしょうか?
PMPが確認した範囲において、行政の姿勢は「できれば法の趣旨に沿って、育児休業規程を改定し、3歳から小学校就学始期までの子をもつ社員に対して、仕事と育児の両立支援のための柔軟な働き方を実現するための措置を纏めて欲しい」というものでした。よく言うところの “お願いベース” の位置づけです。その意味では、すでに導入済の企業はすでに規定化も済んでいる既存制度を育児休業規程において改めて規定化しなければならないということではありません。
しかしながら、今回の法改正対応では、企業が2つ以上の選択肢を定めるに際しての事前の従業員代表等の意見徴取義務に留意しなければなりません。厚生労働省のQ&Aでも “既に社内で導入している制度を「柔軟な働き方を実現するための措置」として講ずる場合においても、職場のニーズを把握するため改正後の育児・介護休業法第23条の3第4項に基づき、過半数労働組合等から意見を聴取する必要があります。”(Q2-7)とされています。お忘れなく。
さらに、既述の事情から、育児休業規程の改訂作業を不要として見送る場合は、以下にもご留意ください。
今回の改正法を改めて引用します。
『育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律』
(3歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置)
第23条の3 事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳から小学校就学の始期に達するまでの子を養育するものに関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づく次に掲げる措置のうち二以上の措置を講じなければならない。
改正法で求めているのは、“措置を講じる” ことです。措置とは必要な仕組み・体制・手続きを整えることです。敢えていえば、整えた措置を社員全員に適用しなければならない義務までを負うものではありません。
これが措置義務です。
ここで留意点。同じく改正育児休業法により、10月1日以降企業は1歳11か月から2歳11か月までの子を持つ社員に対して、柔軟な働き方を実現するための措置の個別の周知・意向確認を行い、また個別の意向聴取とそれに対する配慮義務を負っていることをゆめゆめ忘れてはなりません。
育児休業規程の改訂作業を、すでに制度導入済で規定化も済んでいる事を理由に見送った企業も、左図で示した個別周知・意向確認と個別の意向の聴取と聴取結果への配慮義務はあります。特に、個別の周知に続いて行われる、一人一人の社員の意向の確認結果は、企業が保存する義務を負っています。行政の立場からすれば、これらの実施状況を確認することで、今回の改正法の狙いである3歳から小学校就学までの子を持つ社員の仕事と育児の柔軟な働き方の実現に向けての各企業の実際の取り組みが確認できることになります。
繰り返しとなりますが、改正法が求めるのは措置義務であり、各企業の措置についての情報を当事者に個別に発信し、意向を確認し、仕事と育児の両立の支障となるような個別の事情を聴取した上で、各社の状況に応じて、できる範囲で配慮を示すことまでが求められています。
各社が選択した柔軟な働き方を実現するための措置について、対象となる一人一人の社員と丁寧なコミュニケーションを行った上で、各社の事情に応じた配慮を行うことになると思います。
ただし、行政も「聴取した意向への配慮としては、事業主として意向の内容を踏まえた検討を行うことは必要ですが、その結果、何らかの措置を行うか否かは事業主が自社の状況に応じて決定していただくこととなります。なお、検討の結果労働者から聴取した意向に沿った対応が困難な場合には、困難な理由を労働者に説明するなどの丁寧な対応を行うことが重要です。」(Q2-35)と言っている通り、各社の事情に応じて、対象社員の個々の事情にもできる範囲で気を配り、是々非々で対応していくということになろうかと思います。
以 上