PMP Premium News
2021.10.19
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
有期雇用者の無期転換を振り返って

厚生労働省では多様化する労働契約の様々なルールについての検討が進められています。期間の定めのある有期雇用者の無期転換ルールの検討はテーマの一つです。
そこでは、これまでの無期転換の実態のレビューが行われていました。筆者の関心を呼びましたのでご紹介したいと思います。
無期転換の現実
厚生労働省の資料によれば、何れも2018年~2019年度に無期転換申込権が生じた有期雇用者の現実の姿のようです。
- 無期転換申込権が生じた労働者の中で、無期転換の申し込みをしたものは全体の約3割弱程度。厚生労働省の推計によれば無期転換者数は118万人。

- 無期転換を申し込まなかった労働者の66%はは有期雇用契約のまま雇用を維持されている。本人の都合の退職は6%、雇止めは5%とわずかというのが実態。
- 有期雇用者の希望を見ると、無期転換希望者は2割弱、希望しない(有期雇用を継続したい)が2割強、わからないが5割超。
- 無期転換を希望する理由(複数回答)のうち、82%が「雇用不安がなくなるから」、6%が「長期的なキャリア形成の見通しや将来的な生活設計が立てやすくなるから」 (注:筆者にはこの二つの回答はほぼ同じようなもののように思えますが・・・)

一方で無期転換を希望しない理由(同じく複数回答)は、人それぞれのようで、「・現状に不満はない 37%」「・高齢(定年後再雇用)だから 25%」「・契約期間だけ無期となっても意味が無いから 21%」「・責任や残業など負荷が高まりそうだから 19%」「・元々長く働くつもりはなく辞めにくくなるから 17%」等々。

- 無期転換ルールを知っているか?の質問に対して、企業の8割が知っているとの回答に対して、有期雇用者の4割が知らないという状況。
厚生労働省内の検討の方向性は??
無期転換ルールを根幹から見直さなければならない大きな問題は生じていないとして、(企業による)有期雇用契約の濫用的な利用を抑制し(有期雇用者の)雇用の安定を図るために無期転換を知らない労働者がまだ多い(全体の4割ー上記5.)ことから、周知啓蒙を(企業を通じて)図り、労働者が無期転換の制度を理解した上で希望者が権利行使できる方向で見直すとしています。注:( )は筆者によるもので、厚生労働省見解とは異なる可能性もありますので注意してください
無期転換をしたものは3割、残りのほとんどは有期雇用が継続されているという実態はあまり振り返られることはないようです。また、無期転換の維持継続の基本方針は予め定められており、そこまでの振り返りは当初からしないかの様に思えます。
市場とは本来その参加者の任意の行動に委ねるべきで、市場に軽々に外部が介入するべきではなく、無期転換申込権を労働者が一方的に獲得行使できるいう法制度は、本来自由であるべき労働市場に人為的に介入することで、どれだけ労働市場を歪めているか、それがもたらす弊害の有無、「有」の場合(無いわけはありませんね)の実際の程度や市場への影響の検証は少しもなされないようです。
厚生労働省の検討は以後、現行の無期転換を前提とした無期転換申込機会の確保、無期転換前の雇止め、クーリング期間、無期転換後の労働条件と詳細な部分の検討に移っていきます。
しかしながら、そもそも有期雇用者を雇用している事業所の割合は4割超、そのような事業所であっても、有期雇用者の割合は約2割でしかありません。さらに言えば無期転換の対象となり得る常用労働者を対象とすれば、有期雇用者の職務タイプとしては「軽易職務型」の割合が最も高く、全体の64%を占めています。無期転換の議論に最も馴染みやすい「正社員同様職務型」は2番目に多いとされていますが、その割合は19%でしかありません。さらに3番目の12%は「別職種・同水準型」となっています。
無期転換の実態は、「軽易職務型」と「別職務・同水準型」の有期雇用者の76%に対して、無期という雇用の安定を与える仕組みであることは、検討会では議論すらされていないようです。実は、この段落で参照した統計数値はすべてこの厚生労働省の検討会の付属資料からの引用でしたが、検討会の検討内容をみると一顧だにされていないようにすら思えます。この検討会は結論ありきで、細部補強の検討を行っているようにもみえます。

企業としては、「無期雇用者を正社員登用制度により正社員とし、正社員就業規則の適用を受けるグループ」、「無期転換申込権行使により無期契約社員就業規則の適用を受けるグループ」、「無期転換申込権発生前の段階で雇止めするグループ」に分け、それぞれの仕組みをはっきりと整理しておく必要があるように思ます。
無期という雇用の安定は、労働者側の一方的な権利行使により実現させるべきものではないと考えます。無期という雇用期間の提供は、長期的な視野に立つ人材育成や会社の期待する水準を目指し弛まぬ努力を惜しまない就労姿勢とセットであるべきものです。無期契約は労働者個人と企業との合意により形成されるべきものであると思います。労働契約法による無期転換の仕組みが今後さらに細かく規定化されるのであれば、企業は早めに、自社の無期転換の対応の仕組みを整えておくべきだと考えます。
今回、無期転換について、出来るだけ客観的情報を提供するといういつものPMP Newsの基本スタンスからはやや踏み込んだ筆者見解まで述べています。ご容赦ください。
なお、無期転換についての筆者の思い、また筆者の考える企業のあるべき対応策については近々、筆者の個人ブログ“HR羅針盤”で公開する予定です。こちらも関心ある方はネットでご確認ください。
今回の参考資料は厚生労働省検討会↓の資料を参照しています。
多様化する労働契約のルールに関する検討会 第8回資料
以 上
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