PMP Premium News
2024.01.29
- 実務シリーズ
今年の賃上げ見通し

2024年は昨年を上回る賃上げが予想されています。
連合も定期昇給にベースアップを含めた賃上げ目標を昨年度の5%程度から5%以上と、エスカレートしています。
参考にしている第一生命経済研究所からも、昨年賃上げ実績3.60%に対し、2024年の賃上げを昨年11月では3.70%と予想していましたが、つい最近3.95%と予想を引き上げています。
下図は厚生労働省が1月23日に発表した調査結果をグラフ化したものです。
直近8年間のグラフと、同調査が始まった1976年からの47年間の長期トレンドを示す2つのグラフを作ってみました。
一般労働者の平均賃金は月額31万8300円、2022年に続いて過去最高を更新。 前年比から2.1%増。伸び率は1994年の2.6%増以来29年ぶりの高い水準です。最も2023年の日本のインフレ率は前年比+3.1%ですので、実質賃金ベースでは賃金は目減りしていたことになります。
厚生労働省の賃金構造基本統計調査速報について、日経新聞では「厚労省が速報値を公表したのは初めて」と紹介して、2024年の賃上げを促進しようとする政府の姿勢を反映しているとしていますが、今年は物価上昇を上回る賃上げを期待する声が高まっています。


改めて、掲記長期トレンドのグラフを見ると、日本経済の失われた30年という言い方がまさに言い得て妙だということがよくわかります。かつては世界で一番賃金の高い国だった日本が、今やOECD加盟国34か国中24位、お隣の韓国は19位と既に大きく差をつけられています。これも30年間、日本では賃金がほとんど上がらなかったからです。
さて2024年の賃上げ、まだまだ着地点の予想値までをはっきりとは掲げることはできませんが、4%を超え、5%に届くか否かあたりではないかというのが今のPMPの意見ではあります。各社の2024年の賃上げについての姿勢、各業界の動きや労働組合の春闘の運動の状況、今年も“官製春闘”の様相ですので、政府の動きも含め、これからの多方面の動向に注目していきましょう。
さて、この機会に別の論点から皆様へ問題提起をしたいと思っています。
今年の賃上げを議論する際に、日本の企業の7割を占める中小企業の賃上げ動向について盛んに報道されています。商工中金の調査によれば、中小企業の2024年の賃上げ計画は2.58%(前年は1.98%)、全従業員の賃上げを実施する企業は全体の50.8%(前年は41.4%)と、何れも2023年と比較すれば、2024年はより大きな賃上げを予定している傾向にあると言えましょう。
とはいえ、大手企業に比べれば中小企業の賃上げは苦しいものがあり、政府の分析でも中小企業は賃上げ相当額を価格転嫁することに難しさを抱えており、これが中小企業の賃上げが進まないことの一因としています。
PMPは別にこの分析を否定するものではありません。
しかしながら、政府、自民党であれば、行政・立法双方の観点から、もう少し別の角度から中小企業の賃上げを支援する道があるはずです。
欧米諸国に比べると、何層倍も硬直的な、労働条件の不利益変更を不可とする労働実態を打開する道筋を作ることです。今回の場合は基本給の下方硬直性の緩和となります。
多くの裁判例を見れば、基本給の引き下げは解雇に続く、殆ど実現が困難な労働条件の不利益変更事案となっています。多くの企業の敗訴事例が積み上がっています。
30年以上前の、日本経済が右肩上がりの時代であれば、給与が上がるのは当然だったかもしれませんが、経済が成熟期になった日本では、景気の上げ下げにつれて人件費という企業最大のコストも弾力的に管理されなければなりません。基本給は人件費の中核、中心に位置づけられます。これが下方硬直的で引き下げられないのであれば、基盤が相対的に脆弱な中小企業が積極的な賃上げに踏み切れないのは至極当然だと思います。
もちろん、賃金、特に基本給の引き下げなど、企業は軽々に行ってはなりません。とはいえ企業経営では、企業自身を存続させるために他の方法が残されていなければ基本給の引き下げも止むを得ないとされています。いわゆる整理解雇の4要件では、解雇回避努力の典型の一つとして、賃金の引き下げも謳われています。しかしながら、実態を見ると、これまでの日本では基本給引き下げはほぼタブー視されてきました。
これまでの日本の常識を変える必要があり、立法・行政がリードする出番ではないのでしょうか?
以 上
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