精神障がい者の重度の見送り – 障がい者雇用

ご存じの通り、障がい者の法定雇用率は2024年の4月に2.5%に引き上げられ、2026年にさらに2.7%に引き上がることになっています。
注:PMP News 2023年2月13日 障がい者の法定雇用率は2.3%から2.7%に引き上げられます。 ⁻ 労働法改正 実務シリーズ
厚生労働省では、「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会」で、障がい者雇用について様々な議論を交わされていますが、先月の同会では、精神障がい者の「重度区分」の見送りが決定しました。筆者の記憶では2022年の同省の労働政策審議会障害者雇用分科会で同様の議論が行われており、今回もほぼ同様の議論から同じ “見送り” との結論となりました。
さて障がい者の “重度” の仕組みは、現状は以下の通りです。これは、ダブルカウント制度ともいわれており、就労の困難度の高い重度障がい者の雇用促進に一定の役割を果たしてきたという評価があります。
しかしながら、精神障がい者にはこの “重度” の考え方が導入されてはおらず、“研究会” で改めて重度の仕組みの導入が検討されています。結論としては、「“職業重度” の考え方は、働く上でより困難性が高い場合に該当することを踏まえると、精神障がい者における働きづらさを鑑みて、“重度” の区分を 検討することは自然。」だが、一方で、「精神障がい者は体調や症状に波があることも多いため、「重度」の線引きは困難であり、区分設定は適さない。」「精神障がい者の就労困難性について客観的指標がなく、 “重度認定”の可否は疑問である。」「引き続き十分な検討が必要。」という当会の結論でした。誤解を恐れずに纏めると、負担が重いから重度認定でダブルカウントを許すという従来の論理構成が精神障害の場合は安定的に成立しないということが理由なのだろうと思います。
一方で、掲記表でもお分かりの通り、精神障がい者は他の障がい者と異なり、週所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者の場合も、0.5人ではなく1.0人とカウントされています。これは“当分の間の措置”とされていますが、当研究会では、「精神は他の種別と異なり、短時間ほど雇用管理の負担が重いことや、精神障がい者の雇用推進に恩恵が大きいため、特例措置は維持・恒常化されるべき」という意見もありました。一方で、障害特性の観点からは短時間雇用の方が効果があるという意見もあり、これについても当面は“当分の間”の取扱いとして引き続き検討するとして落ち着いた模様です。
同研究会の資料によれば、以下の「左図」のように、定着率は精神障がい者が低いのが実態。ただし、精神障がい者の所定労働時間別の定着率「右図」を見ると、フルタイムの定着率が最も低いという傾向を示しています。
また精神障がいの場合、精神障がい者保健福祉手帳制度により、1級から3級に分かれ、2023年の統計では、1級:138,622人、2級:843,633人、3級:466,662人、合計1,448,917人の手帳保有者とのこと。“日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度” という定義の障害1級から “日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度” の3級、2級はこの3級の制限に “著しい” という程度の差が加わります。目下のところ、この手帳の等級に比例して就労困難性が高くなるとの結果は明確にはなっていないというのが、当研究会の資料にあります。
先日お会いした、ハローワークの障がい者雇用のベテランの指導官は、特に東京のハローワークでは精神障がい者雇用の促進が喫緊の課題ですというご意見でした。
しかしながら、下表の障害別の平均勤続年数の結果を見てもまだまだクリアすべき “障害” があるように思えます。
以 上