柔軟な働き方の措置についての企業現場の混乱 その1 – 改正育児休業法関連

10月から施行された改正育児休業法では、3歳から小学校就学始期までの子をもつ社員に対して、仕事と育児の両立支援のための柔軟な働き方を実現するため、企業は2つ以上の選択肢を用意して、社員はその内1つを選択できるとされています。
しかしながら、改正法に沿って育児休業規程を改訂し、それぞれの制度設計を行おうとした際に、様々な疑問が出ているようです。
これまでPMPは労働法の制定や改定に際して、各企業には、法律の各条文に加えて行政機関向けの法解釈を纏めた通達を根拠にして、具体的な対応方法や留意点をお知らせしています。その際には、それぞれの法律を所管する労働各行政の担当者とも様々な意見交換を重ねています。
今回の改正育児休業法に関する問い合わせについては、所管する都道府県労働局は、本省より発表されたQ&A通りの回答に終始していたという感想を持っています。- 各企業の疑問や質問は、各企業の事情も反映する等の事情からQ&Aに関連しつつも実際の「Q」とは違う内容の質問も多いのですが、これらに対して明快な回答は得られないのが現状のようです。
あるいは時間が経過すれば、事態はもう少し落ち着くのかもしれませんが、PMPではこの時点での各企業からの質問と行政からのコメントを参考に、Q&Aには明快な回答がない事項の対応方法についての情報を発信したいと思います。
まずは「その1」。今回は管理監督者問題 について取り上げます。
管理監督者については、すでに PMP News でお知らせしたとおり9月24日に新しいQ&Aとして追加されています。
Q2-7-5:「柔軟な働き方を実現するための措置」は、労働基準法第41条第2号に定める管理監督者についても講じる必要がありますか。
A2-7-5: 管理監督者も「柔軟な働き方を実現するための措置」の対象となります。 そのため、事業主は、管理監督者についても他の労働者と同様に、「始業時刻等の変更」・「在宅勤務等の措置」・「養育両立支援休暇」・「保育施設の設置運営その他これに準ずる便宜の供与」・「所定労働時間の短縮」のうちいずれか2以上の措置を講じ、3歳以降小学校就学前の子を養育する期間において、これらの措置の利用を可能とする必要があります。
なお、管理監督者については、始業・終業時刻等について広範な裁量が認められていることにより、労働基準法の労働時間等に関する規定が適用除外されていますが、管理監督者であることをもって「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」の措置を講じたことにはならず、事業主はこれらの措置を含む5つの選択肢の中から、2つ以上を選択して措置する義務がある点に留意してください。(略)
よくある質問は、「当社の選択肢は ①所定労働時間の短縮=短時間勤務 ②始業時刻等の変更だった。短時間勤務制度も始業時刻等の変更の制度も、改正法施行前から導入済だが、管理監督者はもともと労働時間の規制の適用除外者であるため、これらの制度の適用除外としていた。そうなると、管理監督者のためには、別の柔軟な働き方の措置を2つ定めなければならないか?」というものです。
これに対してこのQ&Aでは、管理監督者であることをもって「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」の措置を講じたことにはならず、と言っているに過ぎません。
一つの対応の可能性としては管理監督者にも「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」の措置の適用を検討するということだろうと思います。要は、管理監督者は労働時間の適用除外者だから、「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」の制度をそのまま適用することはできないが、わが社の柔軟な働き方の措置に基づいて、管理監督者の所定労働時間や実際の始業時刻等について、これまで以上に弾力的な運用ができる工夫がないかを考えてみるという対応が考えられます。
混乱を招く原因の一つとして 過去(2010年2月26日付)の育児休業法関連のQ&A をご紹介します。
Q19: 管理職は、所定労働時間の短縮措置の対象となりますか?
A: 管理職のうち、労働基準法第41条第2号に定める管理監督者については、労働時間等に関する規定が適用除外されていることから、所定労働時間の短縮措置を講じなくても構いません。
とあります。しかしながら、その先まで読めば
Aの続き:(略)また、同号(=労働基準法第41条第2号 – PMP)の管理監督者であっても、育児・介護休業法第23条第1項の措置(=育児のための短時間勤務制度 – PMP)とは別に、同項の所定労働時間の短縮措置に準じた制度を導入することは可能であり、こうした者の仕事と子育ての両立を図る観点からは、むしろ望ましいものです。
結論として纏めれば、今回の改正法に添う企業の選択肢として、「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」を選択することは問題ない。管理監督者については、彼らから申出があった際に、労働時間の適用除外者である事を理由に、これらの選択肢の適用を断ってはならない。ここまでが本改正法のQ&Aからの結論。
そこから、展開すれば、管理監督者に対して「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」以外の選択肢を与えることは法的には問題ない。しかしながら、PMPはこのような対応はお勧めしません。同じ会社で、管理監督者であることを理由に、柔軟な働き方を実現するための別の選択肢を用意することは、管理監督者自体が、労働基準法第41条第2号から労働時間の規制の適用除外者としてすでに労働時間管理である程度の柔軟性を認められた存在であるにもかかわらず、今回の改正法によりさらに別の選択肢が用意されることには大きな違和感を覚えます。
そうであれば、PMPは参照した過去のQ&Aにある、“準じた制度を導入する” という発想に立って、「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」に準じた対応を検討するという対応が宜しいように思えます。
その際にPMPが考慮すべきと考えるのが、同改正法で10月より同じく義務とされている一連の措置です。
まずは1歳11か月から2歳11か月の子を持つ管理監督者に対しても、柔軟な措置についての個別の周知を行い、それについての取得の意思確認をまず行います。その際、管理監督者が「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」の制度を利用する意向を示した場合には、それに続く措置義務である、意向確認を行い、会社としてその意向に対して配慮することになります。具体的には、管理監督者が「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」の制度を利用する上で、労働時間の適用除外者である事から修正・変更あるいは付加や削除しなければならない事項を示し、「所定労働時間の短縮」や「始業時刻等の変更」に準じたその管理監督者用の制度(というよりは “運用” )を工夫し、その管理監督者の柔軟な働き方の実現を目指す ということになるのだろうと結論付けました。
最後に、今回、更にこれに続く一連のPMP Newsは今回の改正法対応で現時点では行政からは明快に得られない部分について、PMPなりに組み立てたものです。今後の厚生労働省本省からの通達、追加修正のQ&Aで、これらを再修正する可能性もあり得ることは予めお断り申し上げます。
以 上