同一労働同一賃金法(改正短時間・有期雇用労働法)の行政対応実務

同一労働同一賃金法(改正短時間・有期雇用労働法)の行政対応実務

同一労働同一賃金の関連法は4月1日から全企業に適用開始。
ご高承の通り、同一労働同一賃金を規定する労働法は昨年4月から労働契約法から、改正短時間・有期雇用労働法に“引越し”しました。労働契約法では裁判が唯一の紛争解決手段でしたが、“引越し”に伴い、都道府県労働局長が助言・指導・勧告、必要ある時は調停を行うことができるようになりました。
(これに関して一言。労働法関連の紛争、法違反と言えば、すぐに労働基準監督署をを連想される方も多いようですが、労働行政の各所轄はそれぞれが担当すべき労働法があらかじめ定められており、同一労働同一賃金の行政窓口は労働局の雇用環境・均等部(室)です。お間違いのないように。)
要は、労働者が“訴え出易く”なったわけで、言い換えると企業の同一労働同一賃金の労務紛争のリスク値が上昇したことになります。さらに、3月には中小事業主向けの改正法適用の猶予措置も終了し、すべての企業に対して同一労働同一賃金への対応が必要となりました。

正社員と契約社員間の処遇の差を解消し、就業規則の改定を行う前に実務ではやるべき事があります。
同一労働同一賃金問題といえば、よく聞くのが、契約社員には賞与や退職金を支給していないのは大丈夫か? とか、契約社員にも「XX手当」の支給を支給し始めた とか、正社員だけに与えていた夏休みを契約社員にも与えるように規程を改定した 等々の話です。
そのような格差是正のための対応自体は首肯すべき行動ですし、非正規社員との処遇格差については一つ一つ丁寧に解決すべきものであるとは思います。
しかしながら、改正法や関連通達からいくと、すぐにでも文書として交付すべき事項はこれら以外のことです。また、文書交付の義務違反は、容易に摘発も可能です。こういったすぐにでもやるべきことを後回しとし、正社員と非正規社員の複雑な処遇格差の詳細な見直し作業を優先している企業も珍しくありません。

まずは短時間・有期雇用労働者の雇用契書書式の見直し。
すぐに記載すべき事項は以下の4つです。念のための点検をお願いします。
① 昇給の有無:単に昇給する事が有るか無いかを記載するだけです。
昇給を会社が決定する際の条件や仕組みなど、契約社員が知りたがるはずの事項までの記載は不要です。
逆に、“働き振りに応じて昇給を決める”などの、いかにもありがちな記載すれば、単純に「昇給が有るか無いか」が判別できず、結果として法違反となります。

契約更新の際に昇給の有無を決定する場合、これを契約書に記載してもNGとなります。この場合、契約期間の中での昇給と考えれば「昇給無し」とすべきです。
② 退職手当の有無:同様に有るか無いかの記載のみです
③ 賞与の有無:これも同様に有るか無いかの記載のみです
④ 相談窓口の設置:同法に規定される“雇用管理の改善等にかかわる相談窓口”として、担当部署、連絡先、担当者職名氏名までを記載します。

次に、法が求める説明義務と周知義務の違いにも注意しましょう。
改正法では事業主への義務として、説明義務と周知義務の2種類があります。実務上はこのように区別しましょう。
説明義務は口頭のみの説明も含まれるとされています。周知義務の場合は、周知したことを義務者である事業主が立証できるようにしておくよう注意しましょう。端的に言えば、文書を用意しておきましょうという事です。
実は多くの方々が時間をかけて取り組まれている、正社員と契約社員の細かい処遇格差は、説明義務の対象です。もちろん会社が一つ一つの手当や福利厚生まで細かい処遇の違いについて、差があっても不合理ではないと説明しなければなりませんから、説明準備のため時間をかけて丁寧に見直して会社なりの合理的説明を用意する事は大変重要なことです。とはいえ、言ってしまえば、“口頭説明でもOK”の範囲内ですし、さらに言えば、細かい処遇格差が不合理となるか、合理性の範囲内かという難しい問題については、厚生労働省から“同一労働同一賃金ガイドラインー厚生労働省告示第430号”が発表され、そこには細かい手当や福利厚生などについても「問題となる例」「問題とならない例」までの記載があります。しかしながら、昨年も含めた同一労働同一賃金の最高裁判例などを注意深く見ると、厚労省ガイドラインとは細かいところのニュアンスが異なる裁判官判断も示されているように思えてなりません。誤解を恐れずあえて申し上げれば、一つ一つの処遇格差の合理性・不合理性については、まだまだ不透明な部分があるとも言えます。
注;すでに決着済の処遇格差は、給食施設・休憩室・更衣室の3つの福利厚生のみです。

一方で周知義務が義務付けられているのは、“通常の労働者への転換の推進”です。
正社員転換の仕組みは、口頭説明で済ませることだけでは不十分です。
「ウチでは優秀な人であれば契約社員でも正社員にしている」として、改正法対応は問題ないと誤解している経営者がまだまだ多いようです。この考え方はNGです。

改正法の要求は厚労省通達によれば以下の4通りのうちのいずれかの選択肢(複数でも可)です。
①   通常の労働者を募集する場合、その募集内容を既に雇っているパートタイム・有期雇用労働者に周知する
②   通常の労働者のポストを社内公募する場合、既に雇っているパートタイム・有期雇用労働者にも応募する機会を与える
③   パートタイム・有期雇用労働者が通常の労働者へ転換するための試験制度を設ける
④   その他通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずる

先ほどの事例の社長さんの思い込み、「ウチでは契約社員を正社員に転換させているから大丈夫だ」は法の要求は契約社員に正社員に転換するための機会を与えることで、転換させることまでは求めていません。しかしながら、正社員募集をする場合に常に募集内容を周知されているわけではないとすればNGとなります。
優秀な契約社員を登用するという、限られた人材の有効活用を目指そうとする経営者の思いは、この改正法の枠外にあります。

通達の周知の例示列挙は以下の通りです。


上記の事例をみれば、いずれも資料作成も含めて何らかの文書作成が必要となります。
なお、このNews に関連する筆者の個人的見解は、個人ブログ『HR羅針盤』にまとめています。

以    上