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2019.12.25
- 労働法改正
同一労働同一賃金 その3 企業名公表の対象となる法違反とは?

2020年4月から施行される短時間有期雇用労働法(以下「同法」)では法違反に対して、行政の助言・指導・勧告が行われる事になります(同法第18条第1項)。
さらに同条第2項では、都道府県労働局長による助言・指導・勧告を行っても履行されない場合は企業名公表の対象となるとされています。
企業名が公表されるリスクは最優先で回避すべきものですが、先だってのPMP News 同一労働同一賃金 その1 でもお伝えした通り、この企業名公表には多くの企業が取り組んでいる均衡待遇(同法第8条)違反―労働の同一性は認められないため待遇差を設けているが、その差はバランスがとれており不合理なものではないという処遇水準を実現する―は含まれていません。
この機会に同法違反の結果、企業名公表となるもののうち、特に注意を要するものを抑えておきましょう。
まずは、同法6条関連です。短時間労働者並びに有期雇用労働者の雇い入れ時には、労働条件通知書(あるいは雇用契約書)にて、以下の事項を必ず追加記載してください(同法第6条第1項)。
① 昇給の有無(昇給とは「一つの契約期間の中で賃金の増額を示すもの」としています)
② 退職手当の有無(支給形態が一時金であるか、年金であるかは問いません)
③ 賞与の有無(賞与とは「定期または臨時に支給されるものであって、その支給額があらかじめ確定されていないもの」としています。)
④ 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善に関する事項に係る相談窓口(通常は人事部ですね。担当部署や担当者の役職名や氏名の記載が典型例となります)
の4つの項目です。
また、昇給・賞与が業績等の事情で支給されないことがある場合や、退職手当が勤続年数等の事情から支給されない可能性がある場合は、制度としては「有」と記載し、その上でこのような事情についても言及すべきとしています。ややマニアックですが、昇給ではなく、賃金改定「有」と示し、賃金改定には据え置きなどがある場合は、賃金改定についての説明が必要であるとしています。何の説明もなく単に賃金改定「有」のみの記載とした場合は、同法が要求する昇給の有無の説明にはならないとしています。とは言え、実務を考えると、昇給させる必要はないケースも起こり得るので、その可能性を担保する記載 ―例えば、「会社や個人の業績によっては、昇給のみならず、据え置きや降給することもある」が必要となります。
同様に、同法第6条第2項では、短時間労働者や有期雇用労働者の雇い入れ時に文書の交付により明示すべき努力義務について列挙されていますので、ご関心ある読者諸氏はこれも参照してください。
次は、同法第14条関連。これはいわゆる説明義務です。第14条第1項は雇い入れ時、第2項は雇い入れた後に求めがあった時に、① 通常の労働者との待遇の相違の内容と理由 ② 同法第6条から第13条までの措置を講ずべきとされている事項に関する決定に際して考慮した事項 について説明義務が課されています。
注意していただきたいのは説明を行う際には、労働条件通知書では努力義務としていた同法第6条第2項で定める事項も説明義務には含まれている点です。つまるところ、賃金、教育訓練(職遂行上必要とされる教育訓練以外を含む)、福利厚生全般、さらには通常の労働者への転換について、求められれば説明する義務を負っています。説明は口頭でも良いとされていますが、説明すべき範囲は広範囲にわたっています。
悩ましいのは、説明に際して、告示では、「比較の対象となるのは職務の内容、職務の内容と配置の変更の範囲等が最も近いと事業主が判断する通常の労働者で良い」とされていますが、「待遇に関する基準の相違(これは賃金体系などの説明で対応可能でしょう)の有無を説明するほか、(略)待遇の個別具体的な内容又は待遇に関する基準を説明する事(ゴシック体は筆者)」としています。待遇に関する基準の説明では、賃金規程や等級表等の支給基準の説明を行うとしていますが、かかる基準がない場合は、賃金の個別具体的な内容の説明が必要となります。その場合は、選定した比較対象が一人の場合はその賃金額、複数の場合は平均額または上限・下限を説明する事としています。賃金額のように極めて機密性も高い情報についての開示も必要となりかねないという事になります。これを避けるためにも、早急に待遇に関する基準の整理が必要となると思います。その際、従来よく見られた「各人の能力、経験等を考慮して総合的に決定する」という説明では曖昧で不十分とされている点にもご注意ください。
最後に、法第13条関連。これはいわゆる正社員転換制度です。法では通常の労働者への転換としているので、厚労省は正社員とフルタイマー契約社員の二本立て転換制度を想定しているようです。改正法では、転換制度の対応としては ① 通常の労働者の募集に際して、短時間労働者や有期雇用労働者にその募集に関する事項を周知する事 ② 通常の労働者の配置を新たに行う場合、その希望を募る事 ③ 転換のための試験制度を設ける事の3つのうちの何れかを講ずるものとしています。
筆者は特に③を「正社員転換のための試験制度」として設計する事を奨励します。これまで「わが社は契約社員でも頑張って優秀な人は正社員にしている」という話を何度も聞きました。この程度のやり方ではこれからはダメです。わが社の正社員とは何か? その役割は? 将来の期待は? 等々を考えて、自社の正社員像を具象化して、そこから正社員の判定基準を作ってみてください。わが社の正社員とは何かを明確なメッセージで発信してください。同一労働同一賃金の個別の問題を解決する足掛かりとなるはずです。
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