Remote Work を考える その1 – 実働時間

Remote Work を考える その1 – 実働時間

コロナを契機として急速に新しい働き方が広がりました。在宅勤務とか、テレワークとか色々な言い方をされていますね。
新しい働き方のコアの一つが就労の場所の弾力化であれば、厚生労働省が積極的に使っている「テレワーク」という言い方が適切なように思います。しかしながら「テレワーク」という単語は、和製英語です。Global にもすぐに通用する名称は “Remote Work” だと思います。視点を Global に据えて、ここでは Remote Work と呼ぶことにします。

さて Remote Work つまり出社せず自宅をはじめ様々な場所で働く場合、日本の厳しい労働時間管理に関する法令は企業にとって頭の痛い問題といえます。
労働時間管理については、Remote Work の場合でも、厚生労働省通達「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日 基発0120第3号)」が基本的考え方である事に変わりはありません。
加えて、労働安全衛生法では「(客観的な手段による)労働時間の状況の把握」(新安衛法第66条の8の3、新安衛則第52条の7の3)という労働時間に関する使用者の義務もあります。 

注:この労働安全衛生法の「労働時間の状況の把握」には、管理監督者や裁量労働などのみなし労働者等全ての労働者が対象となる点にご注意ください。

そもそも労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間ですが、指揮命令下であることが成立する要件の一つに、場所的拘束性がありました。Remote Work はこの場所的拘束性の“拘束力”が弱まった状況であると言えましょう。
実際のところ、Remote Work という、使用者と同じ場所で労働者が働いていない、場所的拘束性がない状況で、正確な実働時間を管理する事は、使用者の努力だけでは100%完全に実現する事は土台無理だという事を最初に申し上げておきます。

厚労省の言う、労働時間の適正な把握を実現するのは、実働時間を上回っても構わないというような割り切りのルールを設定する事で可能となるのかもしれません。
労働行政の観点からは、企業が実働時間を上回る時間を労働時間として把握し、これに基づいて実働時間を上回る時間外労働の割増賃金を支払っていれば、労働者には不利益にはならず、労働行政としても問題ないという立場なのだと思います。

しかしながら、そもそも使用者と労働者の雇用関係の原則に立ち返れば、労働者は雇用契約で定めた労働時間通りに正しく就労しなければならず、一方で使用者は契約通りに就労した労働者に契約で定められた報酬を支払わなければなりません。その意味では正確な実働時間を把握する事は雇用契約を支える原則だと思います。原則には拘るべきで、ないがしろにしてはなりません。

では実働時間とは何か? PCを起動していても、それがそのまま就労している事にはなりません。
実働時間が成立するには、以下のような要素が必要不可欠であると考えます。

1.まずは “職務専念義務” です。
「ながら勤務」をどう考えますか? PMPは「ながら勤務」の時間は実働時間とはみなさないという立場を会社は取るべきと考えています。“ながら”という就労以外の行動を同時並行して行っている状況は少なくとも完全な指揮命令下にはないといえます。
先日も、スポーツクラブで運動中も明日上司に提出する提案書の内容を考えていたとして Time Sheet にスポーツクラブでの運動時間を労働時間として計上する事例がありました。企業として到底受け入れることはできませんね。
もっともこれは極端なケースですが、「子供が発熱したので看病しながら在宅で働きます」という申し出を上司が承認している事例は多くの企業で見受けられます。しかし、親として子供に付き添い看病している時間は労働時間ではないはずです。就労できるのは、発熱した子供が落ち着いてから後の事だと思います。当日の朝の段階で、確実に終日在宅勤務ができる状態であるという判断には疑問を持ちます。そもそも子供が発熱したのであれば休暇(看護休暇も可)を取得して看病に専念すべきだと思います。

2.使用者との信頼関係を棄損せず、雇用契約で約束した就労を誠実に遂行する “誠実労働義務” も実働時間を決定する要素として含めるべきです。

3.可能であればもう一つ付加していただきたいのが、“業務促進義務” です。
単に一生懸命に就労していても、その結果が業務の促進に繋がらない行為であれば、投入した時間をそのまま実働時間とすることは、経営者としては抵抗を感じて当然だと思います。ただし、真面目に一生懸命頑張っているが、業務が一向に促進しない事態も十分にあり得る所です。従って、この3つ目のポイントについては上司の適切な指導や指示が不可欠となります。社員が会社にとって有用な戦力となって実力を発揮するには上司の関与は不可欠です。
これは Remote Work でも変わることはありません。

結論としては、実働時間の把握には、終業後一日を振り返り、客観的機械的な始業・終業の時刻の記録を元に、上記3つのポイントをすべて満たす就労時間を実働時間として再定義する作業が必要となると思います。
そしてこれを自己申告させるべきだと考えています。

Remote Work、特に在宅勤務では一時的に就労を中断し家の用事をする事もあり得ると思います。いわゆる「中抜け」ですね。
中抜けは労基法では休憩時間に分類されますが、各社のテレワーク規程を見ると中抜けを事前の申し出 ⇒ 上司の承認のプロセスとするパターンが多いように思います。しかしながら実態を考えれば、都度申請・都度承認のプロセスは現実的ではありませんし、上司の管理負担も大きいと思います。
Remote Work として中抜けを幅広く認め、実務上は一日の終わりにその日の個々の中抜けの時間をそのまま記録したデータを纏めて包括的に申請させ、それを上司が包括承認するくらいの割り切りが運用上適当だと考えています。

また会社は、社員一人一人に、自分の実働時間を毎日正確に申告する事を求めましょう。
そのために社員には「実働時間とは何か」を改めて理解させ、会社の考える実働時間の定義に沿い自分の労働時間を報告することを Remote Work の労働時間管理の原則としてほしいと思います。Remote Work に関する社内規定を策定する上で、会社が考える「実働時間とは何か」を改めて定義する事が重要であるとPMPは考えています。

注: PMPでは Post Corona の New Normal を支える Remote Work 規程を各企業の実情に応じて策定しています。ご関心ある企業はお気軽にお問い合わせください。

その際、会社、特に上司が注意すべきは実働時間の過少申告です。これを見逃すと過重労働の原因になりかねません。客観的労働時間データと部下の毎日のEメールや TEAMS/ZOOM などのアクセス状況を総合的にチェックした上で、実働時間の過少申告は排除してください。

実働時間の過大申告も問題ではありますが、これについては、その日には判明せずとも一定の期間その社員の成果を観察していればある程度見当がつくはずです。その上で、例えば、その社員は一時的に Remote Work の適用を中断する、あるいは Remote Work でもフレックスタイム制の適用を中断する、などの対応とすれば、過大申告の疑いについては正しい判断ができると思います。

以    上