兼業・副業 その3 – 労働時間の通算の実務 –

兼業・副業 その3 – 労働時間の通算の実務 –

兼業第3弾として、労働時間の通算の実務について考えてみましょう。兼業に際しての労働時間の出発点の考え方は、労働基準法第38条の定めと旧労働者通達 基発第769号(昭23.05.14)です。兼業を認める場合は企業、兼業先の労働時間を通算しなければなりません。本稿も兼業についての厚労省の新しい考え方である厚生労働省通達「副業・兼業の場合における労働時間管理に係る労働基準法第38条第1項の解釈等について」基発0901第3号(令2.9.1)を参照しています。

まず、兼業開始前は、所定労働時間の通算を行います。兼業先との所定労働時間を通算して、法定労働時間を超えるか否かを確認する事から始めてください。一番確実なのは、兼業先の雇用契約書等のコピーを提出させ先方の所定労働時間を確認する事ですが、兼業先の情報セキュリティ方針などから、これが難しい場合もあります。そのような場合は、社員からの申告で対応してください。

通算して法定労働時間を超える時間は、後から雇用契約を結ぶ先(兼業先)の時間外労働となります。また、兼業先は自社の36協定の定めに従って管理することになります。

兼業開始後は、所定外労働時間の通算を行います、通達では「自らの事業場における所定外労働時間と他の使用者の事業場における所定外労働時間とを当該所定外労働が行われる順に通算して(太字は筆者)」「自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、当該超える部分が時間外労働となる」と説明しています。続けて「各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間のうち、自らの事業場において労働させる時間については、自らの事業場における 36 協定の延長時間の範囲内とする必要がある」としています。

筆者はここで考え込んでしまいました。回答はまだ見つかりません。自社の社員がフレックスタイム制で働いている場合はどうなるのでしょうか?PMPでは多様な働き方を実現する一環としてコアタイムなしのスーパーフレックス制の導入を勧めています。兼業先が通常の1日8時間を法定労働時間として管理する仕組みであった場合、労働時間を通算するにあたり、厚労省が言う“所定外労働が行われる”はどういう順番になるのでしょうか? 

また考え込んでしまいました。自社が1か月単位の変形労働時間制を適用しています。あるいは1か月を超える1年単位の変形労働時間制を使っています。労働時間を通算する際の“所定外労働が行われる”はどういう順番なのでしょうか? 

通達では「各々の使用者は、通算して時間外労働となる時間(他の使用者の事業場における労働時間を含む)によって、時間外労働と休日労働の合計で単月 100 時間未満、複数月平均 80 時間以内の要件を遵守するよう、1か月単位で労働時間を通算管理する必要がある」と続けています。「100時間+80時間規制」は1か月単位の通算管理で良いようですが、“1か月で締めてみたら100時間超えていた!”は法36条違反、労働基準監督署立入検査では通常は即時是正となります。また通達には改正労基法36協定、特別条項発動の場合の1年間の延長できる時間の上限720時間についての記載がありませんが、厚労省の考え方を踏まえれば、当然通算され、720時間の上限を遵守する事になります。しかしながら前段の“所定外労働が行われる”という労働時間の通算の考え方で躓いているため、36協定違反をいかに回避するかという回答にはたどり着いていません。

光を見出すことができるのは、簡便な労働時間管理の方法として通達が紹介する“管理モデル”です。結論を先取りしておきますが、この“管理モデル”は自社の所定労働時間が法定の1日8時間の社員が兼業する場合に、兼業先がOKすると思われる“簡便な”労働時間管理モデルだと言えます。(通達にはそのようなコメントは一切ありませんが・・・)

“管理モデル”は一言で言えば、自社と兼業先、それぞれの労働時間の上限を予め設定し、自社は自社の法定外労働時間分のみ、兼業先は後からの雇用主であるので、兼業先の労働時間分、それぞれで割増賃金を支払うというやり方です。

導入手順は以下のようになります。
1. 自社は“管理モデル”であることを社員経由で兼業先に伝え了解をとる。
2. 36協定の「100時間+80時間規制」の範囲内で自社の法定外労働時間を設定し、兼業先はこれに基づき、「100時間+80時間規制」の範囲内で労働時間の上限を設定する。
3. “管理モデル”を適用し、自社は自社の割増賃金のみを支払う。兼業先は、兼業先での労働時間をすべて法定外労働として計算して割増賃金を支払う。
4. 要注意は60時間超の5割増し(労基法第37条第1項)のみ労働時間の通算が必要。
管理モデルでは、自社では、自社の労働時間をもとに法定外労働に対する割増賃金を支払い、兼業先はすべての労働時間に対して割増賃金を支払う事で法の要件は充足されます。
もっとも自社の労働時間が1日8時間よりも少ない社員が兼業する場合は、“管理モデル”は兼業先に通算すれば支払う必要のない割増賃金まで支払わなければなりませんので、“管理モデル”は、自社の正社員の兼業に有効な簡便法ではないかと考えています。

以 上