PMP Premium News
2020.10.16
- 労働行政の動向
兼業・副業 その4 – 健康管理 –

労働安全衛生法が使用者に求める健康確保措置 – 健康診断、長時間労働者に対する面接指導、ストレスチェック、これらの結果に基づく事後措置等 – は兼業のあるなしには関わりはないとされています。また健康確保措置の実施対象者の選定にあたっては、兼業先の労働時間の通算も不要です。
しかしながら、厚生労働省は先月発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」の中では、「健康確保の観点からも他の事業場における労働時間と通算して適用される労基法の時間外労働の上限規制を遵守すること、また、それを超えない範囲内で自らの事業場及び他の使用者の事業場のそれぞれにおける労働時間の上限を設定する形で副業・兼業を認めている場合においては、自らの事業場における上限を超えて労働させないこと。(注:太字表示は筆者)」としています。
更に、ガイドラインでは「原則として、副業・兼業先の使用者との情報交換により、それが難しい場合は、労働者からの申告により把握し、自らの事業場における労働時間と通算した労働時間に基づき、健康確保措置を実施することが適当である。」としています。実務上では社員からの申告に基づき、兼業先の労働時間を通算した上で健康管理を行う事が適当であるとしていますが、実効をあげるのは中々難しいようにも思います。
もともと労働契約法第5条「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」(安全配慮義務)が定められています。厚生労働省のガイドラインでは、労契法第5条の安全配慮義務は、兼業の場合は兼業を行う労働者を使用する全ての労働者の義務であるとしています。またガイドラインでは「問題となり得る場合としては、使用者が、労働者の全体としての業務量・時間が過重であることを把握しながら、何らの配慮をしないまま、労働者の健康に支障が生ずるに至った場合等が考えられる。」と具体例を挙げています。
とは言え、これを実務に反映させるのは難しいですよね。ある程度有効性があるように思えるのは、ガイドライン“労働者の対応”の記載だと思います。「副業・兼業を行うに当たっては、副業・兼業による過労によって健康を害したり、業務に支障を来したりすることがないよう、労働者(管理監督者である労働者も含む。)が、自ら各事業場の業務の量やその進捗状況、それに費やす時間や健康状態を管理する必要がある。」とあります。兼業の健康管理には兼業者が自らの健康管理についての役割を担わせ、兼業者の協力の下で実効を上げることが良いでしょう。
ガイドラインを参照しながら、具体的な仕組みを考えれば、兼業の事前届け出の際、社員には、①兼業先の業務量、進捗状況、これに費やす労働時間と健康について自己で管理する事を約束させ、②兼業先の就労状況と自社の状況を通算すると、長時間労働等によって労務提供上の支障があると会社が判断する場合には、兼業を禁止又は制限することを予め通知し(就業規則上の対応が必要だと思います) ③兼業者からの報告等を求める。具体的には、企業が必要に応じて都度兼業の状況を把握できる仕組みについて合意形成し、兼業開始後は合意に従って実施する事となるでしょう。
健康管理と言う視点に立ち返れば、労働時間の通算だけでは不十分です。
例えば、自社と兼業先間の移動時間。移動時間は労働時間ではありません。労働時間の通算の対象にはなりません。とは言え、自社から兼業先までの移動時間の長短は、兼業する社員の健康には何らかの影響を与えます。また、兼業先の終業時刻と翌日の自社の始業時刻との関係も健康面で影響ないとは言えないと思います。兼業者からの“報告”を受ける際には状況に応じて労働時間以外の要素も忘れてはなりません。
その際に企業の良き相談相手は産業医だと思います。また兼業者の健康管理の仕組み作りには衛生委員会の活用をお勧めます。具体的な対応については、産業医のアドバイスを受けながら衛生委員会で審議し、その結果も踏まえてマネジメントで決定してきましょう。
なお、社内で兼業者の健康管理について議論する際は、厚生労働省の通達やガイドラインは重要な参照すべき文書ですが、これに留まらず、雇用契約によらない兼業者、例えば個人事業主として業務を受託するケースや自ら起業する場合、兼業先で管理監督者として雇用される場合や、裁量労働などみなし労働の適用を受ける場合なども想定して、兼業者の健康管理の仕組みを、漏れのないように構築していただきたいと思います。
以 上
関連記事(同一カテゴリの最新記事)
-

-
2026.10.14
- 労働行政の動向
社会保険料削減ビジネスを行っていると疑われる事業所に対する事業所調査の状況について – 厚生労働省
厚生労働省は、本来国民健康保険・国民年金が適用されるべき個人事業主等を対象に、会費を徴収した上で法人の役員に加入させ、使用関係の実態のないまま社会保険を適用させるサービス(いわゆる…
-

-
2026.10.06
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
106万円の壁は崩れ去りました – 短時間労働者の社会保険適用に関する賃金要件(月額 8.8万円)の廃止
パートタイマーの社会保険の適用基準の一つ、賃金要件が廃止されました。106万円の壁が法的にもなくなったことになりますが、これについてはこれまでの PMP Premium News …
-

-
2026.09.17
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
今年度最低賃金の動向 – 5%割れの上昇率!?
厚生労働省は、都道府県労働局に設置されている地方最低賃金審議会が答申した令和8年度の地域別最低賃金の改定額(以下「改定額」)を取りまとめました。改定額及び発効予定年月日は以下のとお…
-

-
2026.08.26
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
厚生労働省 時間外労働等に係る相談・支援及び監督指導の見直し
先月21日の閣議で、日本成長戦略並びに経済財政運営と改革の基本方針2026 関連について① 36協定の締結や柔軟な労働時間制度の活用について、よろず支援拠点等との連携を強化しつつ、…
-

-
2026.07.10
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
最低賃金 – 発効日を操作し負担軽減ですか?!
毎年都道府県別に決定されている最低賃金ですが、決定された最低賃金がいつから発効するのか?は、① 法定発効と ② 指定日発効の2種類が定められています。賃金法第14条第2項では、「公…
Pick Up News
-

-
2026.10.16
- 労働法改正
- 実務シリーズ
カスハラ対応:ハラスメント防止規定の役割と企業内で「顧客」の役割を担う担当者への注意喚起 – 今回のカスハラと求職者等セクハラの問題提起 その2
-

-
2026.10.14
- 労働行政の動向
社会保険料削減ビジネスを行っていると疑われる事業所に対する事業所調査の状況について – 厚生労働省
-

-
2026.10.13
- 労働法改正
- 実務シリーズ
カスハラ対応:顧客の権利は? – 今回のカスハラと求職者等セクハラの問題提起 その1
-

-
2026.10.06
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
106万円の壁は崩れ去りました – 短時間労働者の社会保険適用に関する賃金要件(月額 8.8万円)の廃止
-

-
2026.09.04
- 労働法改正
- 実務シリーズ
10月1日以降の有期雇用者用の雇用契約書 ‐ 厚生労働省からの発表