兼業・副業 その5 – 就業規則改定の必要性 –

兼業・副業 その5 – 就業規則改定の必要性 –

兼業・副業(以下“兼業”で纏める)も第5弾となります。さてこの稿でも先月厚生労働省が発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を参照しながら進めていきましょう。

兼業を“促進”する場合は就業規則の改定までをお勧めします。

1.兼業・副業の取扱い(ガイドラインでは触れていません)
まず各企業の兼業に対する基本スタンスを述べてください。
これまでは、兼業は原則禁止ないしは事前の届出(会社承認)を前提とした上での取扱でした。一般的には、就業規則の“服務規律等”の一号の扱いで「会社の事前の許可なく、他の会社の役員に就任したり、社員として雇用契約を結んだり、自ら営利を目的とする業務を行わない事」というような記述としていました。

兼業を促進するのであれば、就業規則の記載箇所の変更から始めましょう。具体的には、就業規則の前半にある、人事“章”の採用“第1節”、人事異動“第2節”の後に続けて、“第3節 兼業・副業”を設けましょう。そこで兼業全体について纏めて整理しましょう。
第1項は兼業についての自社としての原則的考え方となります。引き続き原則禁止とするか、消極的容認とするか、積極的容認とするかは、会社の考え方です。
同一労働同一賃金を踏まえた上で、正社員と有期雇用契約社員では兼業については異なる対応とするのもあり得ます。正社員であっても、管理監督者と非管理監督者で異なる対応、あるいは一定の勤続年数以上しか認めない、従事する業務の種類によって対応は異なるのもあり得ると思います。

2.事前届出制
兼業開始前の届出制の仕組みは必須です。就業規則でも「兼業・副業する場合は、社員は事前に所定の兼業・副業届出書を提出し、会社の確認(あるいは承認)を得なければならない。なお、兼業・副業には、他の社員として雇用契約を締結する場合に加えて、他の会社の役員に就任する場合、業務委託契約や請負契約等で業務を受託する場合、自ら起業する場合を含む。」という表現を提案します。

届出書書式は以下のようになります。
記載項目は、①兼業・副業先の社名 ②業種 ③就労の場所 ④従事する業務 ⑤所定労働時間 ⑥始業並びに終業の時刻 ⑦残業の有無 – 有の場合残業の見込み(頻度と時間) ⑧休日までとなります。
さらに、いくつかの事項を箇条書きで列挙し、この遵守を約束させましょう。これから述べる “2.健康管理” “3.秘密保持” “4.競業避止” については就業規則に加えて、届出書の下部に予め記載し、兼業申請者に「理解し遵守する事を約束します」として署名捺印させた上で、兼業の届出とう流れにする事をお勧めします。

3.健康管理
PMP News Letter 兼業・副業 その4 – 健康管理 – の稿でも簡単に触れましたが、厚労省ガイドラインでは就業規則で兼業者の健康管理について記載する事を勧めています。
「兼業・副業先での長時間労働等の就労状況(並びに会社でその社員が担当する特別な案件等の状況やその社員の体調等の状況)によって労務提供上の支障がある(または支障がある恐れがある)(と会社が判断する)場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができる。(社員は会社からかかる要請を受けた場合は直ちに兼業・副業先にその旨を申し入れ、速やかに兼業・副業先での就労を取りやめるあるいは一定の制限を加える等、会社の指示に従わなければならない)」注:( )内はPMPの追記箇所

4.秘密保持
同ガイドラインでは「自ら使用する労働者が業務上の秘密を他の使用者の下で漏洩する場合や、他の使用者の労働者(自らの労働者が副業・兼業として他の使用者の労働者である場合を含む。)が他の使用者の業務上の秘密を自らの下で漏洩する場合が考えられる。」との問題点の指摘があります。
就業規則上の措置として、「業務上の秘密(あるいは個人情報並びに特定個人情報)が漏洩する(あるいは漏洩する恐れがある)(と会社が判断する)場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができる」という記載を勧めるものです。
すでに、就業規則で記載済のはずですが、“秘密情報の範囲や定義”等、何が秘密とすべき情報であるかについて整理されている事が前提となります。また個人情報等は秘密情報とは異なるため、個人情報、特定個人情報(マイナンバー情報)も追記しました。注:( )内はPMPの追記箇所

5.競業避止義務
同ガイドラインでは競業避止について、「副業・兼業に関して問題となり得る場合としては、自ら使用する労働者が他の使用者の下でも労働することによって、自らに対して当該労働者が負う競業避止義務違反が生ずる場合。他の使用者の労働者を自らの下でも労働させることによって、他の使用者に対して当該労働者が負う競業避止義務違反が生ずる場合。」を挙げています。一方で「競業避止義務は、使用者の正当な利益を不当に侵害してはならないことを内容とする義務であり、使用者は、労働者の自らの事業場における業務の内容や副業・兼業の内容等に鑑み、その正当な利益が侵害されない場合には、同一の業種・職種であっても、副業・兼業を認めるべき場合も考えられる。」と一定の注意喚起をしています。
同ガイドラインでは就業規則に「競業により、自社の正当な利益を害する(ないしは害する恐れがある)(と会社が判断する)場合には、副業・兼業を禁止又は制限することができる」という記載を勧めています。しかしながら、競業避止については、就業規則のかかる記載を根拠として画一に適用する事にはリスクがあるため、PMPでは就業規則に続けて「具体的には、兼業者の会社で従事する業務の内容、兼業先で従事する業務の内容等に鑑み、事前の兼業届出の審査の際に会社が判断をする」と付記しました。

6.兼業者の義務と協力
同ガイドラインには、就業規則に記載すべき事項としては「5.競業避止」で終わっていますが、PMPは兼業者の協力義務も触れておくべきかと思っています。
具体的には「兼業者は(兼業が自らの希望により開始した事情をよく認識し、)従事する業務の円滑な遂行を最優先とするとともに、兼業先での業務の量やその進捗状況、それに費やす労働時間、兼業先までの移動時間、兼業先の終業時刻と会社の始業時刻との関係等を自ら管理し、健康保全に注意するものとする。なお従事する業務の遂行や健康保全に支障がある、あるいは恐れがあると判断した場合は遅滞なく会社に相談しなければならない。会社は兼業者から相談を受けた場合は速やかに問題解決に取り組むものとする。」とする事をお勧めします。
これは、今回の厚生労働省の通達やガイドラインを読めば読むほど、兼業に伴う会社の責任が曖昧であると思われ、不要の労務リスク対応のためにも社員に兼業がもたらす責任を自覚させ一定の義務を予め負わせておきたいと考えたからです。
この部分は労働者の立場からも不利な立場に追い込むものではなく、その意味ではフェアな取り扱いであると考えています。

以 上

https://www.pmp.co.jp/20201016-2/