外資系大手IT企業、 東京労働局“かとく”の送検事例から

外資系大手IT企業、 東京労働局“かとく”の送検事例から

今回は先月8日の外資系の大手IT企業が送検されたという報道記事からのPMP Newsです。

まずは各報道を纏めてみました。

注:複数の報道記事を纏めた時点で、すでに事実とは異なっている可能性もあります。ご了承ください。

厚生労働省東京労働局は8日、A社(注:会社名はPMP News では匿名としています)が、社員に月143時間の違法な時間外労働をさせたとして、労働基準法違反の疑いで、法人としての同社とシニアマネジャーを務める男性社員を東京地検に書類送検した。
同局によると、同社では複数回、違法残業が確認されたが、適切な改善が見られなかったという。(中略)書類送検容疑は昨年1月330日、ソフトウエアのエンジニアの社員1人に法定の除外理由がないにもかかわらず、週40時間を超えて働かせた疑いが持たれている。
同社は36協定」を管轄の労働基準監督署に届けていたが、不備があったとして、有効なものと認められなかったという協定では1年に6回までは、最長で月99時間59分の時間外労働が可能と定めていた。」

労働局での調査および東京地検での取り調べ段階では、捜査の秘密となるため、情報収集ができませんので、現時点では正確な事実関係は不明です。これについてはPMP裁判の動向を見守りたいと思います。

なお、念の為、東京労働局の企業名公表ページを確認しましたが、4月になっても未だ228日現在の更新に留まっています。

各社の疑問・質問に応えましょう。

とは言え、各企業にとっても関心も高く、報道記事から疑問を持たれた方もいると思います。一般化した疑問に展開して回答を用意しました。

1.同社では複数回、違法残業が確認されたが、適切な改善が見られなかったという。

2015年に、過重労働に対して企業の本社に監督指導するため、東京と大阪に過重労働撲滅特別対策班、通称“かとく”が設置されました。翌年には全ての労働局に、“かとく”が配置され、 問題業種に係る重点監督の総括、 月80時間超の残業のある事業場に対する全数監督の総括、本社監督の総括(問題企業の把握分析・実施・調整・指導)などに対応することになりました。
それを踏まえれば、最初からかとく”が乗り出す事はまずあり得ず、最初は所轄労働基準監督署からの指導や是正があり、それに対する会社の対応が不十分とと判断され、かとく”登場となります。

2.法定の除外理由がないにもかかわらず、」

“法定の除外理由がない”とはどういう事なのか?
労働時間関連ですぐに思いつくのは、例えば専門業務型裁量労働。ご存じの通り、専門裁量は、適用できる業務が限定列挙されており、それぞれの業務についても施行規則や通達でさらに細かく規定されています。
この細かい規定の解釈から外れる仕事も常態として行っている社員に対して、会社が専門業務型裁量労働を適用している場合は、専門裁量の適用自体が違法ですので、“法定の除外理由がない”という事になります。
専門裁量はそのほとんどが労使協定により導入されています。いったん労使協定が締結されてしまうと、実は運用が曖昧なケースが散見されます。新たに入社した社員や新しい案件を担当する社員に対して、都度、専門業務型裁量労働の適用が妥当であるかを法に則して厳格に個別にチェックする仕組みまでは用意されていないところが多いようです。
これは潜在的なLegal Riskですので、PMPはこれを回避するために、労働時間設定改善法に基づく、労使委員会方式を提案、これまでの多くの導入事例の実績があります。

3.36協定」を管轄の労働基準監督署に届けていたが、不備があったとして、有効なものと認められなかった

36協定は、所轄労働基準監督署に届出義務があります。これを行政側から言えば、届出された文書に対して行政は受付義務があるという事になります。人事の方々から労基署に“受理”されたという言葉をよく聞きますが、法的には受理と言う用語は存在せず、行政の役割は単に受付-届出書の受領でしかありません。
特に36協定は、届出により発効されるとされている事も相まって、届出をもってわが社の36協定が労基署が問題ないと認められた-労基署のお墨付きを得た-という誤解を持つ方も多いように思います。
労基署がいったん届け出を受け付けた36協定を、改めて労働基準監督官が確認したところ、記載内容に不備を認め、その36協定を無効と判断する可能性は常にあります。この点、是非ご注意ください。
たまに、労基署に36協定の届出た際に窓口で協定の記載の細かい点をあれこれ指摘された という話を聞く事があります。そんな経験のある人事の方より、前回と違い今回はPMPのアドバイスもあり労基署の窓口で何も言われずに36協定が“受理”(この表現も誤解釈ですが)されました というお褒めの言葉を受けたりもします。しかしながら、これは今回はたまたま窓口が忙しかっただけかもしれませんし、前回にしても労基署窓口の指摘内容によっては、「そのまま受け付けてください」と言っても問題なかったかもしれません。

最後に、この報道のまとめからの推測ですが、ひょっとすると、この社員はソフトウエアエンジニアでもあることから、労働基準法限度基準 第5条第3の“新技術新商品等の研究開発の業務”として、36協定の適用除外としていた可能性があります。
実際の具体的な業務内容から法定の除外の理由とならなければ、当然36協定で適用除外扱いとしたものは不備となります。

PMPでは実は新技術新商品等の研究開発の業務を36協定の適用除外とする事はこれまでもお勧めしていません。専門業務型裁量労働にある“新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務”により、せめて労使協定(ただし、PMPお勧めは労働時間設定改善法による労使委員会方式ですが)だけでも結んだ方が良いとは考えています。

何れにしろ、これを契機に、再度自社の労働時間のマネジメントを見直す事を強くお勧めします。

以 上