三位一体の労働市場改革 – 2/3

三位一体の労働市場改革 – 2/3

次は、個々の企業の実態に応じた職務給の導入

職務給を個々の企業の実態に合わせて導入
目指すのは、同じ職務での日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差の解消。
そのため年内に、職務給(ジョブ型人事)について、人材確保の上での目的、ジョブの整理・括り方、人材の配置・育成・評価方法、ポスティング制度、リ・スキリングの方法、従業員のパフォーマンス改善計画(PIP)、賃金制度、労働条件変更と現行法制・判例との関係、休暇制度などについて、事例を整理し、個々の企業が制度の導入を行うために参考となるよう、多様なモデルを示すとしています。これは注目しています。
それにしても、サラりとPIPまでが出現することに驚きとともに、PIPをどこまで正確に理解しているのだろうか?という不安を覚えたりもしています。

給与制度・雇用制度の透明性の確保
給与制度・雇用制度の考え方、状況を資本市場や労働市場に対して可視化するため、情報開示を引き続き進める。
有価証券報告書や統合報告書等に記載を行う際に参考となる「人的資本可視化指針」(昨年8月策定)についても、本指針の内容を踏まえ、年内に改訂する。

最後は、成長分野への労働移動の円滑化。

(1)まずは、失業給付制度の見直しです。

失業給付制度を自己都合の要件緩和を行うとして、例えば1年以内にリ・スキリングに取り組んでいた場合失業給付の申請時点から遡って会社都合の場合と同じ扱いとするなど、自己都合の場合の要件を緩和する方向で具体的設計を行う。

(2)退職所得課税制度等の見直し

退職所得課税については、勤続 20 年を境に、勤続1年あたりの控除額が 40 万円から 70 万円に増額される現行の仕組みが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害していると指摘。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。
個人が掛金を拠出・運用し、転職時に年金資産を持ち運びできる iDeCo(個人型確定拠出年金)について、拠出限度額の引上げ及び受給開始年齢の上限の引上げについて、2024年の公的年金の財政検証に併せて結論を得る。

(3)自己都合退職に対する障壁の除去

民間企業の例でも、一部の企業の自己都合退職の場合の退職金の減額、勤続年数・年齢が一定基準以下であれば退職金を不支給、といった労働慣行の見直しが必要になりうる。
背景の一つに、厚生労働省が定める「モデル就業規則」において、退職金の勤続年数による制限、自己都合退職者に対する会社都合退職者と異なる取り扱いが例示されていることが影響しているとの指摘があることから、このモデル就業規則を改正する。

(4)求人・求職・キャリアアップに関する官民情報の共有化

成長分野への円滑な労働移動のため、求職・求人に関して官民が有する基礎的情報を加工して集約し、共有して、キャリアコンサルタント(現在 6.4 万人)が、その基礎的情報に基づき、働く方々のキャリアアップや転職の相談に応じられる体制を整備する。
ハローワークの保有する「求人・求職情報」を加工して集約し、
民間人材会社の保有する「求人情報」のうち、職種・地域ごとに、求人件数・(求人の)賃金動向・必要となるスキルについて、求人情報を匿名化して集約することとし、その方法については、人材サービス産業協議会の場において検討を行う。
民間の協議会・ハローワーク等に情報を集約し、一定の要件を満たすキャリアコンサルタントに基礎的情報を提供することとする。
官においては、ハローワークにおいて、キャリアコンサルティング部門の体制強化などのコンサルティング機能を強化し、在職時からの継続的な相談支援の充実を図る。
官民で働く一定の要件を満たすキャリアコンサルタントが、職種・地域ごとに、キャリアアップを考える在職者や求職者に対して、転職やキャリアアップに関して客観的なデータに基づいた助言・コンサルを行うことが可能となる。
公共職業訓練制度については、申請のオンライン化やハローワークの就職データの活用による民間教育訓練事業者の業務の効率化を推進するとともに、現場の民間教育訓練事業者からの意見を直接聴取する仕組みの導入等を速やかに実現する。
ハローワークにおいて推薦する職種について、転職前後の賃金を捕捉・比較する方法を検討する。その上で、転職前後の賃金上昇可能性やその後の熟練度に応じた更なる上昇可能性まで考慮に入れた推薦が行われるよう、制度の運営改善を行う。
求職者が中小・小規模企業を選択肢の一つとして検討できるように、個々の中小・小規模企業の強みや魅力についての定性的情報をキャリアコンサルタントが求職者に対し効果的に提供する方途について検討を行う。

(5)副業・兼業の奨励

成長分野への円滑な労働移動を図るための端緒としても、副業・兼業を奨励する。このため、副業・兼業人材を受け入れる企業又は送り出す企業への支援など、労働者個人が新たなキャリアに安心して移行できるようにするためのトライアル環境を整備する。

(6)厚生労働省関係の情報インフラ整備

厚生労働省が運営する職場情報提供サイト(しょくばらぼ)の機能強化と利用促進を図る。また、日本版 O-NET(job tag)の機能強化と多様な属性の利用者に対する利便性の向上を図る。

さて、2号に分けてご案内した以上が、三位一体の労働市場改革の概要となります。読者諸氏はいかがお考えですか?
元々三位一体とは、父(神)と子(キリスト)と聖霊という三つの独立した「位格」が互いに神の本質を共有している、という唯一神の教義の事ですが、この三位一体の語源に基づけば、今回の内閣官房の三位一体の労働市場改革の内容はずいぶんと軽いように思えてなりません。
確かにここで示された3つも日本の旧来の労働市場の改革を考えた場合に検討すべき点であるかもしれませんが、この3つが“労働市場改革の本質を共有しかつ唯一のもの”であるようには思えません。

今回ご紹介した指針では、さらに続けて多様性の尊重と格差の是正の観点からの改革についても触れています。そちらの方が日本国民の働き方、仕事とそれぞれの生活との両立を考えるときにジョブ型給与の導入などと比べると重要ではないかと個人的に思ったりもしています。これについても次号、「三位一体の労働市場改革 – 3/3」でご案内しましょう。

以    上