PMP Premium News
2023.06.27
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
三位一体の労働市場改革 – 1/2

岸田総理のテレビでの国民への直接の語り掛けもあり、6月16日PMP Newsで速報として 「異次元の少子化対策 – 企業人事の関連は?」についてご案内しております。
実は、岸田さんのテレビがあり速報としたため、当初考えていた順番が後先になってしましましたが、その前に内閣官房から三位一体の労働市場改革という指針 が発表されています。
企業の人事にとっては、こちらの影響がより大きいと思います。2回に分けて、まずは“三位一体”の内容についてご案内しましょう。
政府の問題意識は以下の通りです。
まず“働き方は大きく変化している”との認識からスタートしています。 その上で、我が国の賃金水準は、長期にわたり低迷。この間、企業は人に十分な投資を行わず、個人は十分な自己啓発を行わない状況が継続していると続き、GXやDXなどの新たな潮流は必要とされるスキルや労働需要を大きく変化させるが、現実には、働く個人の多くが受け身の姿勢で現在の状況に安住と厳しい指摘をしています。 その上で、背景には、年功賃金制などの戦後に形成された雇用システムがあるとし、職務や要求されるスキルの基準が不明瞭、評価・賃金の客観性と透明性が不十分であり、低いエンゲージメントや転職しにくく、転職したとしても給料アップにつながりにくい現在に繋がるとしています。この評価分析は筆者にはやや短絡、強引であるように思えますが、いかがですか?
とは言え、政府の言う通り、「旧態の雇用は変革し、個人が、雇用形態、年齢、性別、障害の有無を問わず、将来の労働市場の状況やその中での働き方の選択肢を把握しながら、生涯を通じて自らの生き方・働き方を選択でき、自らの意思で、企業内での昇任・昇給や企業外への転職による処遇改善、更にはスタートアップ等への労働移動機会の実現のために主体的に学び、報われる社会を作っていく」という方向性には賛成します。
内閣官房が掲げる直接の具体的な目標としては以下の2つのようです。
① 日本企業と外国企業の間に存在する賃金格差の縮小と性別、年齢等による賃金格差の解消 ② 内部労働市場と外部労働市場間のシームレスな接続を実現し、転職により賃金が増加する者の割合が減少する者の割合を上回ることを目指す
この目標設定は果たして適切なのでしょうか?この目標から目標達成の手段としての3つの労働市場改革が必要であるとされています。 三位一体の労働市場改革と称し、具体的には以下の3つが柱となります。
1.リ・スキリングによる能力向上支援 2.個々の企業の実態に応じた職務給の導入 3.成長分野への労働移動の円滑化
さて三位一体をそれぞれ見てきましょう。 まずは、リ・スキリングによる能力向上支援
① 個人への直接支援の拡充 企業経由中心から5年以内を目途に、働く個人が主体的に選択可能となり、過半が個人経由での給付が可能となるよう改め在職者のリ・スキリングに繋げるとのことです。 業種・企業を問わずスキルの証明が可能な Off-JTでの学び直しにより重点を置き、習得したスキルの履歴の可視化を可能とするデジタル上での資格情報の認証・表示の仕組み(オープンバッジ)の活用を推奨する。 雇用保険の教育訓練給付では高い賃金の獲得、高いエンプロイアビリティの向上が期待されるIT、データアナリティクス、プロジェクトマネジメント、技術研究、営業/マーケティング、経営・企画、観光・物流などの分野の補助率・補助上限の拡充の検討等具体的な制度設計を行う。キャリアコンサルタントの役割の強化、ハローワークや職業訓練校等での在職者へのコンサルティングにも触れています。 2033 年までに日本人学生の海外留学者数 50 万人を目標とし、社会人の海外大学院への留学を促進する。
② 企業の人への投資の強化の必要性 OJTを除く日本企業の人への投資は、2010 年から 2014 年に対 GDP 比で 0.1%。対して米国(2.08%)やフランス(1.78%)。企業の人材投資額と離職率は反比例との外国のデータを挙げ企業自身が、働く個人へのリ・スキリング支援強化を図るべきとしています。
③ 雇用調整助成金の見直し 休業よりも教育訓練による雇用調整を選択しやすくすべく助成率等の見直しを行う。 さらに具体的に、教育訓練・休業による雇用調整の場合、給付期間は1年間で 100 日まで、3年間で 150 日までであるが、例えば 30 日を超えるような雇用調整となる場合には、教育訓練を求めることを原則とし、例外的にその日以降に休業によって雇用調整を行う場合は助成率を引き下げるなどの見直しを検討とあります。
④ デジタル分野などの認定講座の拡充 デジタル関係の教育訓練講座数(179 講座(2023 年4月時点))を、2025 年度末までに 300 講座以上に拡大
⑤ 給与所得控除におけるリ・スキリング費用の控除の仕組みの柔軟化 給与所得控除におけるリ・スキリング費用の控除の仕組み(特定支出控除)。キャリアコンサルタントも、そのリ・スキリングが職務に関連する旨の証明を行えるように改正する方針のようです。
さて、紙面も尽きようとしています。三位一体改革の2つ目の柱 “個々の企業の実態に応じた職務給の導入 ”、3つ目の柱 “成長分野への労働移動の円滑化” については次号でお知らせします。
以 上
関連記事(同一カテゴリの最新記事)
-

-
2025.11.07
- 労働法改正
- 実務シリーズ
柔軟な働き方の措置についての企業現場の混乱 その4 3歳未満の子を持つ従業員の情報 – 改正育児休業法関連
10月から施行された改正育児休業法では、3歳から小学校就学始期までの子をもつ社員に対して、仕事と育児の両立支援のための柔軟な働き方を実現するため、企業は2つ以上の選択肢を用意して、…
-

-
2025.10.14
- 労働法改正
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
柔軟な働き方の措置についての企業現場の混乱 その3 パートタイマーからの申し出 – 改正育児休業法関連
10月から施行された改正育児休業法では、3歳から小学校就学始期までの子をもつ社員に対して、仕事と育児の両立支援のための柔軟な働き方を実現するため、企業は2つ以上の選択肢を用意して、…
-

-
2025.10.10
- 労働法改正
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
柔軟な働き方の措置についての企業現場の混乱 その2 すでに導入済の制度と法改正対応 – 改正育児休業法関連
10月から施行された改正育児休業法では、3歳から小学校就学始期までの子をもつ社員に対して、仕事と育児の両立支援のための柔軟な働き方を実現するため、企業は2つ以上の選択肢を用意して、…
-

-
2025.10.08
- 労働法改正
- 労働行政の動向
- 実務シリーズ
柔軟な働き方の措置についての企業現場の混乱 その1 – 改正育児休業法関連
10月から施行された改正育児休業法では、3歳から小学校就学始期までの子をもつ社員に対して、仕事と育児の両立支援のための柔軟な働き方を実現するため、企業は2つ以上の選択肢を用意して、…
-

-
2025.09.26
- 労働法改正
- 実務シリーズ
10月から施行開始の “柔軟な働き方を実現するための措置” のQ&Aが9月24日改訂されました – 改正育児休業法関連
10月1日から改正育児休業法では、特に、3歳以上小学校就学前までの子を養育する社員が、育児と仕事を両立するための柔軟な働き方を実現する措置を講じなければなりません。具体的には、改正…

