情報通信機器を用いた産業医職務の一部実施について その1

情報通信機器を用いた産業医職務の一部実施について その1

新型コロナウイルスの感染拡大予防を奇禍として、在宅勤務など情報通信機器を活用した新しい働き方が広がっています。
社員の健康を守り、会社の職場環境保全義務の重要な役割を担う産業医も、同じように情報通信機器を用いてより弾力的に活動していただくことが可能となりました。ご存じですか?
今回はこのテーマでNews Letterを発信する事にします。
とは言え、産業医の責務を考えれば、情報通信機器を用いる場合には、自ずと一定の制限も必要となるかと思います。そのような問題意識も反映され、今般、厚生労働省から、通達「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」基発0331第4号(以下、「本通達」という)が発信されました。本通達の中では、厚生労働省がこれまで発信した複数の関連する通達も参照されており、その点からも、本通達は産業医活用に限定されず、人事が情報通信機器を用いた効率的な社員の健康保全措置全般を考える際に、良き参考になるものではないかと考えています。

今回は、内容も多岐にわたるため2回に分けて発信をします。

情報通信機器を用いる場合の共通の留意事項

本通達では、まず情報通信機器を用いた場合においても、事業場における労働衛生水準を損なわないための原則となる留意事項を示しています。
まずは衛生委員会での審議です。情報通信機器を用いて遠隔で産業医が実施する職務の範囲やその際の留意事項等について、衛生委員会等で調査審議を行いましょう。その上で、その内容を社員に周知しましょう。
次に、産業医への情報提供。情報通信機器を用いて遠隔で職務を実施する産業医に対して、タイムリーかつ円滑に社員の健康管理に必要な情報を提供する仕組みを構築しましょう。
あわせて、産業医が必要と認める場合には、産業医が実地で作業環境等を確認することができる仕組みを構築する事も必要とされています。また遠隔で職務を実施する場合でも、事業場の周辺の医療機関との連携を図る等の必要な体制を整えておくことも必要とされています。

情報通信機器についての留意事項

利用する情報通信機器については、
① 産業医や社員が容易に利用できるという前提を踏まえ 
② 映像、音声等の送受信が常時安定しており、相互の意見交換等を円滑に実施することが可能なものであること。
③ 取り扱う個人情報の外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止の措置を講じること。特に社員の心身の状態に関する情報については、個人データに対するアクセス管理、個人データに対するアクセス記録の保存、ソフトウェアに関する脆弱性対策等の技術的安全管理措置を適切に講じること。とされています。

産業医の職務のうちで、産業医や医師による面接指導の際の留意事項

情報通信機器を用いる産業医の職務の中で、企業にとって一番関心の高いものは面接指導だと思います。メンタル系疾患に強い本社の産業医に地方の体調不良を訴える社員の面談を依頼したいというようなニーズが具体的には考えられます。また在宅勤務の拡大を踏まえれば、自宅にいる在宅勤務者と産業医との情報通信機器による面接指導のニーズもあるはずですね。その際の留意事項について説明します。
実は厚生労働省からは「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第 66 条の8第1項、第 66 条の8の2第1項、第 66 条の8の4第1項及び第 66 条の 10 第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」(平成27年9月15日付 基発0915第5号(令和2年11月19 日最終改正されています。))という通達が発信されています。この通達も参照しながら、面接指導の留意事項を解説します。
面接指導は「問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うこと」とされており、情報通信機器を用いる

面接指導では以下のすべての要件を満たさなければなりません。
① 面接指導を行う医師と社員が相互に表情、顔色、声、しぐさ等を確認できるものであって、映像と音声の送受信が常時安定しかつ円滑であること。
なお、令和2年11月19日の最終改正により、これまでの“映像を伴わない電話による面接指導の実施は認められない”という文章は削除されました。興味深いのは、“電話による面接指導を認める”という文章は見当たらないという点です。
② 情報セキュリティ(外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止)が確保されること。

③ 社員が面接指導を受ける際の情報通信機器の操作が、複雑、難解なものでなく、容易に利用できること。

また遠隔で情報通信機器を用いて面接指導できる産業医・医師は以下のいずれかでなければならないとされています。
① 事業場の産業医の場合。
② 面接指導を実施する医師が、契約(雇用契約を含む)により、少なくとも過去1年以上の期間にわたって、対象社員が所属する事業場の社員の日常的な健康管理に関する業務を担当している場合。
③ 面接指導を実施する医師が、過去1年以内に、対象社員が所属する事業場を巡視したことがある場合。
④ 面接指導を実施する医師が、過去1年以内に、当該社員に指導等を実施したことがある場合。
なお、令和2年11月19日の最終改正により、これまでは“過去1年以内に、当該社員に直接対面により指導等を実施した事が有る場合”としていた表現から“直接対面により”という箇所が削除されました。

さて今回はこの辺りで紙面が尽きてしまいました。
次回、面接指導以外の情報通信機器を用いた産業医の職務、情報通信機器を用いた衛生委員会等の運営要領等について説明します。

以    上