ワクチン休暇 試論

ワクチン休暇 試論

新型コロナウイルスワクチン接種が拡大されており、いよいよ接種対象が16歳以上65歳未満(これに12歳以上が続こうとしていますが…)に広がろうとしています。

News Letterでは、521日付で、厚生労働省から発信された企業向けQ&Aを「速報 新型コロナウイルスのワクチン接種に関して –  新型コロナウイルス対応 #70」という題名でご紹介しました。このNews Letterについては以下をご参照ください。
https://www.pmp.co.jp/20210521-2/

これを契機に“ワクチン休暇”に関する様々なお問い合わせをいただいています。
昨年12月予防接種法が改正され、コロナワクチンは来年213日までの特例扱いなりました。コロナワクチン接種は強制接種ではありませんが、努力義務として位置づけられました。改正予防接種法については厚労省の以下の資料をご参照ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000688925.pdf

この機会に、ワクチン接種に関する主要な課題を試論として纏めてみました。各社のご対応の参考にしていただければと思います。

まずは、企業のワクチンに対する基本姿勢を社内に発表する事

最初に企業としての基本姿勢を社内に発表してください。例えば、“新型コロナウイルスの感染拡大を防止するために、社員とご家族、並びに関係者各位に新型コロナワクチンの接種を奨励します。ワクチン接種は一人一人の体質や接種時のご体調、またワクチン接種に対する考え方等々について様々な違いがある事も十分に認識しています。企業としては全員に接種を強制するものではありません。しかしながら、企業としては接種に積極的に協力するという基本姿勢の下で社員のワクチン接種にはできる限りの便宜をはかりたいと考えています” というようなメッセージです。

接種を加速するため、大規模接種会場の設営や職場接種等、新たな動きが生まれてきており、企業はこれらの動きにも機動的に対応する事が求められます。その際に頼りになるのはワクチン接種に対する企業の基本姿勢です。是非とも社内に公表してください。かかる際には、社員の健康管理保全に重要な役割を担う産業医所見や衛生委員会での審議結果などもぜひご活用ください。

注:これまでも経営者は人事部任せで済ませて、産業医や衛生委員会に対する関心が薄いのではないかと思う場面を数多く目撃しています。
その上で、具体的な対応として、2通りの取り扱い事例をご紹介します。各社の具体的な対応策のたたき台としてご活用ください。

オプション1:ワクチン接種に関し、社員一人につき4日の特別休暇を付与する。

  1. 接種一回につき接種日と翌日、2日間の特別有給休暇を認めるもの。ファイザーやモデルナは一人2回のワクチン接種となるため、一人4日の特別有給休暇の取得となります。
  2. この仕組みの良さは単純明快さにあります。企業のワクチンに対する積極姿勢も明らかに示されています。また、政府からのワクチン接種協力要請に則した対応としてのアピール力も備えていると思います。
  3. 運用面では、取得事由が限定される特別休暇ですので、社員は取得に際して事由を明らかにすることが求められます。
  4. “傷病休暇”や”失効積み立ての有給休暇”などの既存の制度を、今回限りの特例措置として拡大活用する事も可能です。
  5. なお、副反応がひどく接種2日目以降も体調不良で就労に耐えない場合は、通常の傷病等の欠勤、社員の希望により普通有給休暇等といった通常の対応となります。
  6. 問題点は、一人4日という特別有給休暇日数の妥当性が検証できない点です。筆者の周辺の80歳代のワクチン接種者は、副反応などは一切なかったという方もいれば、一方で腕の痛みを訴える方もいました。人それぞれです。
    規模の小さな事業場は、接種日が重なったり近接したりする場合に、人繰りに苦労する事もあるかもしれません。
    仮に、一人4日は振り返ると必要以上の特別有給休暇日数だったと後日わかり、現場では人繰りを心配したマネージャーが休日接種の奨励等の接種日の調整を行っていたとなれば、結果として、ワクチンの接種を奨励するという企業の基本スタンスからも外れてしまうことにもなりかねません。 

オプション2:当日のワクチン接種所要時間は中抜け(有給)、翌日副反応で体調不良の場合に限り1日の特別有給休暇を認めるもの。

  1. 接種の加速のため、予防接種法では接種単位とされた市町村を超えた大規模接種センターが東京・大阪、またそれ以外の地域にも設営されています。新たに職場単位の接種の導入の検討も始まりました。
    会場までの移動時間や待ち時間も含めると接種日の就労が最初から難しいケースもあれば、午前中は出勤し、午後職場近くの大規模接種センターで接種するケース、就労途中の中抜けで接種できる職場接種のケース等々、色々と考えられます。
    いちいち特別休暇などの扱いとはせず、有給の中抜け扱い(最大で1日を認める)とする割り切りで弾力的運用が可能となり、現実的であると思います。
  2. 接種翌日は、副反応により体調不良の場合は社員からの申し出により特別休暇(有給)を認めましょう。特別休暇は1日単位、半日単位、時間単位の取得も認める弾力的対応としましょう。出勤を免除し在宅勤務を認める対応もありだと思います。
    なお、これを特別休暇とせず、普通有給休暇の取得の奨励に留めるという対応も否定しません。副反応の発生の頻度と就労への影響に応じて、弾力的に考えても宜しいようにも思います。
  3. 接種日翌日以降、副反応により就労不能の場合は取り扱いは、通常の傷病時の会社の定め通りとしましょう。

その他気づいた事として…

  1. 就業規則のとの関係について。
    就業規則の改定等は行う必要は無いと思います。今回限りの特例措置として会社から社員に周知すれば十分でしょう。労働組合がある場合には会社の考え方と実施要領を少なくとも事前に説明し理解を求める事も大切です。なお、周知は文書として、実際の特例措置の具体的な内容を漏れなく社員に伝え、実施に際しての混乱を防ぐための準備をしてください。
  2. 社員のワクチン接種日の取り扱いは、オプション1・2双方ともに有給扱という共通点があります。社員がこの特例扱いを利用する限りは企業が社員からワクチン接種に関する情報を収集しても問題ありません。ワクチン接種情報の提供を社員が拒む場合は、有給の取り扱いは適用されず、平日のワクチン接種は社員が普通有給休暇を別途取得する(この場合は、普通有給休暇であるため会社は取得事由を聴取できません)、接種は私用による職場離脱となり接種時間は欠務として給与控除される=無給という扱いになろうかと思います。
  3. 接種日翌日の副反応を理由とする特別有給休暇については、オプション2では副反応から就労が難しい場合に限っての付与となるため、社員には副反応により就労困難であることを説明する責任が生じます。とはいえ、診断書とか医療施設での受診を証する領収書の提示などは要求できないと思われ、実際は、社員から上司宛や人事宛に社内メールや電話等で特別休暇を申請させ、その際、体調等につき会社が確認する程度だろうと思います。なお社員は、会社に対する説明なしに一方的に特別休暇を取得する事はできません。
  4. 視点が異なりますが“特別休暇”絡みで一点、こんな事もPMP内では議論しました。コロナ禍も1年以上となり、外出自粛期間も長く、社員は帰省や旅行等、まとまった日数の有給休暇が取れていません。
    多くの企業では普通有給休暇の取得実績が例年に比べると低いと言われています。ご存じの通り、改正労働基準法により年間5日間の有給休暇の取得が企業には義務付けられています。
    これを考えると、ワクチン接種関連で休みが必要と言われてはいるものの、今はまずは普通有給休暇の取得を奨励で対応したいという考え方もあるとは思います。
    接種当日の事情も副反応についても不確かなことが多すぎますので。
    その後、休暇の年度末近くに、有給休暇全体の取得実績を睨んで、またその頃にはひょっとするとコロナも落ち着き企業の業績見通しも今よりははっきりするとなれば、その頃に、改めてワクチン接種の際の社員の有給休暇の取得状況を振り返って、必要あれば、コロナを全社で乗り切ったご褒美として、臨時の特別有給休暇を1年程度の期間限定で認めるというアイデアもあるようにも思います。

何れにしろ、コロナという有事の対応です。硬直的なルールを定めるのではなく、時々の状況に応じて弾力的に対応する事が得策であるように思います。コロナの感染を防ぎ、ワクチン接種には積極的に協力するという企業の基本姿勢を常に実践して示す事だと思います。

以    上