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2021.07.20
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テレワークにおける労働時間の把握 その1 移動時間 – 改正テレワークガイドラインから

改定された厚生労働省のテレワークガイドラインを参考に、各社の頭を悩ませているテレワークにおける労働時間の把握について、何回かに分けて説明したいと思います。
通勤?それとも労働?
まずは移動時間の問題です。「今日は在宅勤務だ!」と思い、朝から自宅でPCに向き合い仕事をしていると、上司から連絡があり、緊急に出社しなければならなくなりました。
自宅から会社までの移動時間は、労働時間ですか? それとも通勤時間ですか?
朝から出社を予定している場合、自宅から会社まで移動するのは通勤時間となります。通勤時間は労働時間ではありません。では在宅勤務開始後、自宅から会社までの移動をどう考えるのでしょうか?
ケースバイケース、労働時間となったり、ならなかったりします。
厚生労働省ガイドラインでは、「使用者が具体的な業務のために急きょオフィスへの出勤を求めた場合など、使用者が労働者に対し業務に従事するために必要な就業場所間の移動を命じ、その間の自由利用が保障されていない場合の移動時間は、労働時間に該当する。」という見解を示しています。この場合のKEY WORDは“自由利用の保障”となります。
厚生労働省はあわせて「労働者による自由利用が保障されている時間については、休憩時間として取り扱うことが考えら れる。」という見解も出しています。
そうなると「すぐ出社せよ」と言うと移動時間は労働時間となりますが、「今日は在宅勤務の予定だったので申し訳ないが、この件は今日出社して対応してください」と言う程度の指示であれば、上司からの具体的な出社時刻の指定はなく、社員自らが会社までの移動の自由利用が認められるとして、この移動時間は労働時間ではないという事になるようです。
自宅から会社までの移動の自由度により労働時間となったり、ならなかったりします。そうなると、上司は自由度を与えたつもりでも、上司の言い方、社員の聞き方から、双方に誤解が生まれる事もあるでしょう。労働時間になる!ならない!は、その月の残業代にまで影響が出たり、お互いが気まずくなったり・・・という事もあるかもしれません。
通勤時間?それとも休憩時間?
厚生労働省の改正ガイドラインには、この場合の移動時間について休憩時間と言う表現を使っています。通勤時間と言う表現を使っていません。自宅ですでに始業開始しているため通勤ではないという事かもしれません。
通勤行為途上の事故等は通勤労災として保障されています。しかしながら休憩時間中の私的行為は原則として労災の適用対象外となります。
さて在宅勤務中に、事情があり会社に行かなければならなくなった移動中に事故にでもあった場合、移動は休憩時間とみなされ、労災の適用は認められないという事になるのでしょうか? それとも、これまでもよく見られた、労災の考え方は労基法とは違う という独特の説明が登場するのでしょうか? 今後、移動中の事故の事例が具体的に生じた場合に、トラブルになりそうな予感がします。
事業場外労働で所定労働時間内の移動はそもそも労働時間とされていました。
実は事業場外労働の際にも、例えば営業担当者が移動時間を自由利用できるか否かで労働時間であるかを判断するという考え方はもともと行政から示されていたものです。
顧客から次の顧客までの移動時間についても、そこに自由利用の考え方を適用して、通常要する時間で移動する場合、この移動時間は労働時間となると整理していました。
しかしながら、アポと次のアポの間で、顧客の都合もあり“通常要する移動時間”以上の時間があることなどは、実務上はよくありますし、実際には、そこまで厳格な時間管理はせずに、業務開始後の営業担当者の移動時間は、直帰の際の自宅までの移動時間を除いて労働時間とみなすという処理をしていました。
筆者の記憶では、所轄労基署の現場指導の際に、所定労働時間内の事業場外労働の移動は労働時間とするのが適当である、という議論をしました。複数の監督官との間でそのような話をしています。
今回改正されたのはテレワーク勤務のガイドラインですので、事業場外労働を持ち込むことは議論を混乱させるだけなのかもしれませんが、労働時間の考え方は、テレワークであろうと事業場外労働であろうと、働き方の違いによらず原則は共通であるべきだろうとも思います。その観点では改正ガイドラインは、細かい部分の辻褄合わせに力点が置かれているかの観を覚えます。
テレワークという新しい働き方に対して、今まで行政が細かく細かく積み上げてきた労働時間の考え方をもって整理する事の難しさがあるように思えます。
発想の大胆な転換のようなものを持ち込まない限りは、筆者には行政見解の細部にこれまでの見解との矛盾点が入り込むか、矛盾を避けて行政の書面上は問題なく済ませることができたとしても、実務では実は対応が難しいというという事態にもなりかねないと危惧します。
ご参考
厚生労働省 『テレワークの 適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』
以 上
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