テレワークにおける労働時間の把握 その2 中抜け時間 – 改正テレワークガイドラインから

テレワークにおける労働時間の把握 その2 中抜け時間 – 改正テレワークガイドラインから

今回のテーマは中抜け時間です。
テレワーク、特に在宅勤務を考える際に、通常の就業時間を特に弾力化して業務を一時中断する中抜け時間を認め、その間は私的行為を認めるという事は、1日の時間を有効に使う点で効果が認められると考えています。

行政の基本スタンスは会社判断に委ねるというもの
改正された厚生労働省のテレワークガイドラインによれば、「テレワークに際しては、一定程度労働者が業務から離れる時間が生じることが考えられる。」とした上で「このような中抜け時間については、労働基準法上、使用者は把握することとしても、把握せずに始業及び終業の時刻のみを把握することとしても、いずれでもよい。」と言うのが行政の考え方です。

もっとも「中抜け時間を把握しない場合には、始業及び終業の時刻の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として取り扱うこと」となりますので、PMPでは中抜け時間を把握しないという選択肢はお勧めをしません。
テレワークの場合に限らず、最近、労働時間とは実際に就労する時間=実働時間であるという、ある意味では当たり前の概念が特に若い社員に通じない事が有るという相談が増えています。極端な言い方をすれば、会社にいる時間はそのまま労働時間。会社にいる時間が例えば8時間を超えれば、会社は私に残業代を払うのは当然であるというような意見が横行しているかにも思えます。

会社はまず実働時間の把握を意識しましょう。
行政は、「会社が中抜け時間を把握しないのであれば、その時間も含めて会社が労働時間として扱い労働の対価としての報酬(残業代を含む給与)を社員に支払えば、労働者にとって不利な取り扱いではないため問題とはしない」という立場をとっています。
また、そもそも労働時間を把握する義務は事業者=会社にあるため、中抜け時間と言う業務から離れる時間を会社が把握しないのであれば、会社が中抜け時間を労働時間ではないと主張することはできないとすること自体も行政の立場からすれば問題のない考え方です。

行政の立場や考え方はそれで良いでしょうが、企業にとってはいかがでしょうか?

人事にとっては、実際に就労する実働時間に拘るという姿勢は堅持しなければならないと思います。生産性を意識して効率よく働いている社員とオフィスにいるだけで実際には仕事もせず長〜い中抜け時間を取得している社員とを、区別なく同じ労働時間のごとく扱ってはなりません。実働時間は公平公正な処遇を実現するための必要不可欠な要素の一つです。ガイドラインではテレワーク中の中抜け時間を把握する場合の方法として、「例えば一日の終業時に、労働者から報告させることが考えられる。」「中抜け時間を把握する場合には、休憩時間として取り扱い終業時刻を繰り下げたり、時間単位の年次有給休暇として取り扱うことなどが考えられる。」と具体的な事例を挙げて説明しています。

中抜け時間の管理は休憩時間の管理」の観点から
PMPの標準的なテレワーク規定では、以下のように整理しています。
まず、実働時間の把握を前提として、テレワーク中の中抜け時間は、社員からは自己申告させ、これを上司が承認するという手続きを出発点としました。

注:PMPの標準的なテレワーク規定では、事業場外みなし労働時間制を採用せずに、事業者が労働時間の把握義務を負うフレックスタイム制度、特にコアタイムを設けないスーパーフレックスタイム制度を勧めています。

その上で、テレワーク規定では労働基準法第34条を意識します。

(休憩)第34条
使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。

労基法では休憩時間の付与は事業者の義務となっています。
そこで、まずテレワーク規定内では、上記の労基法34条に定める休憩時間の付与を使用者の義務として定めた上で、中抜けを念頭にそれ以上の休憩の取得を任意で認めることにしています。
運用に際しては、具体的には、原則としてフレックスタイム適用対象者には前日までに、翌日の就労時間の予定を、始業・終業の予定時刻に加えて、中抜けを含む休憩の取得予定時刻も申告させます。
ご注意いただきたいのは、休憩“時間”ではなく休憩取得予定“時刻”ですので、休憩の開始予定時刻と終了予定時刻を申告しなければならない点です。
上司は、この事前申告を確認し、1日の休憩時間が労基法第34条の定めを下回る場合は改めて適正な休憩時間を追加付与する事になります。
最後に、中抜けを含む休憩時間については、労基法第34条の遵守以外は、弾力的な取り扱いとしました。例えば、短時間(15分程度をPMP標準形では想定しました)であれば、前日までに申告のない当日の中抜け取得も業務に支障がない限りは容認し、また前日までの予定と実際の労働時間・中抜け時間の間の差についても、業務にマイナスの影響がない限りは認めることにしています。

中抜け時間も含めた1日のトータルの時間の自己管理が大切です
欧米の Tips for Work from Home などを見ると、在宅勤務の合間の気分転換を奨励しています。散歩する、軽い運動を行うというものはよく見られますし、仕事の手を休め家族と一緒に過ごすことも良いとしています。1日の時間の使い方を個人に委ねようというのが基本的な姿勢であると言えましょう。

対して、中抜けを含む休憩時間を、厚生労働省ガイドラインのように労基法に沿って考えることは、Compliance上は問題ありませんが、企業の人事としては不十分だと思います。企業人事は常に労働生産性/効率性と個人の尊重という2つの側面を忘れてはなりません。
社員は、1日24時間という有限の時間資源を、Privateな事情を含めて個人としてもっとも効率的に活用する事をまず大事にしてほしいと思います。会社はこの個人の考え方を尊重した上で、就労する時間は実働時間として労働生産性の極大化を一人一人が工夫する事を奨励して欲しい。
健康管理について、労働安全衛生法に基づき労働行政は会社に社員の健康保全責任を負わせています。しかしながら、人事は使用者に労働安全衛生法に違反する行為は行わせてはならないのは当然として、産業医や衛生委員会と連携し、就労以外の各個人が自由に使える時間も含め、1日1日の過ごし方を各自が工夫する事で、自分の健康は自分で守るという意識を植え付けることも大切だと考えます。
社員には1日の時間の Self Management 力を身に着けることを奨励しましょう。
人事はこれらの実現を目指して社員を支援するとともに、Complianceの番人として、一人一人の労働時間の把握も行わなければなりません。

以    上