年収42百万円の部門長の解雇が不当とされた裁判例 – 是非、就業規則の記載の見直しの検討も!

年収42百万円の部門長の解雇が不当とされた裁判例 – 是非、就業規則の記載の見直しの検討も!

昨年末の東京地裁の判決についての解説です。

昨年暮れ、一部新聞の社会面では標題のような人目をつく記事も見かけましたが、ようやく判決文全文が入手できましたので、これを踏まえて解説します。

イギリス系金融機関である「バークレイズ証券」日本法人の元幹部社員が、会社の経営悪化を理由の解雇を不当として解雇無効と未払賃金の支払いを求めた裁判です。
昨年12月13日、東京地裁は「人員削減の必要性や(解雇の)人選の合理性などは認められず、外資系金融機関だとしても社会通念上相当ではない」として、解雇無効と未払賃金の支払いを求めました。

1.経緯

この幹部社員は、当時約400人いた従業員の中で上位25人程度のManaging Director(以下MD)、シンジケーション本部長の職にあり年俸4200万円。
会社は2017年末頃から、グループ全体の業績が低迷し、男性が部長を務めていた本部の収益も振るわないことなどを理由に男性に対して退職を勧奨。男性が拒否すると、会社側は整理解雇に当たる就業規則の「会社の運営上やむを得ない事由」などに該当するとして、18年6月に男性を解雇。その際、会社側は、加えて元幹部社員の成績不良も解雇事由に付け加えました。

2.裁判所の見解

裁判所は整理解雇4要件について、①の要件は、元幹部社員は解雇となる前年は過去最高益を計上し、シンジケーション本部も一定の収益を上げているとして人 員の削減の必要性があったとは認められないとしました。要件②について、元幹部社員に対して降格や賃金の減 額を検討していないこと、要件③については、他の従業員に対して希望退職 を募ったり、配置転換を命じたりはしておらず、合理的な人選基準が定められていないとした上で、解雇を無効と判断しました。元幹部社員の成績については、直近2年間の業績評価(5段階評価の3番目(一部は上から2番目))を示した上で、特に成績不良についてのの会社からの指摘もなかったとしてこれも退けました。
PMPも、会社の状況と幹部社員の解雇前の勤務実態を俯瞰するだけで、本件を整理解雇や成績不良社員の普通解雇として争うのはまず無理だろうと判断しました。年俸4200万円という高額サラリーマンであっても労働者であるため、整理解雇も成績不良社員の普通解雇も、労働者を解雇をやむを得ないとするだけのプロセスを踏むことが求められます。

3.注目すべき点は・・・

本件でさらに喚起したい事は、会社側が、「これで解雇無効なら、国際企業は日本から撤退する」と主張している点です。実は本件には、もともとはグループ全体の組織の見直しが行われ、元幹部社員の所属する部門全体の組織は縮小され、結果として元幹部社員の MDのPositionは消滅したという背景があります。
欧米企業では、事業の継続やさらなる発展のために既存の事業部門を見直し、一部を縮小したり閉鎖することは珍しくありません。ある意味ではいつまでも不採算部門を抱え続ける日本企業の鈍重(失礼な言い方ですが・・・)ともいえる動きの方が筆者は個人的には気になります。確かに、Position Eliminationによる解雇は欧米では珍しくありませんし、本件が日本の司法が、上位の職位のPosition Eliminationを認めないのであれば、日本の雇用慣行は国際常識から外れており、「これで解雇無効なら、国際企業は日本から撤退する」と言う会社側主張については、筆者は頷くところもあります。

しかしながら、裁判所は、この会社の 就業規則(人事異動)「業務の都合により就業の場所、職務の変更もしくは職務上の地位を変更を命ずる事がある。社員は正当な理由なくこの命令を拒んではならない」(注:就業規則の記載は概略です PMP)を示して、この訴えも退けています。

PMPにも多くの外国企業の日本法人のお客様がいらっしゃいますが、実は、外資系企業の就業規則の“人事異動”の項では同様の記載は珍しくありません。筆者も、ずいぶん昔の事ですが、当時丸の内に事務所を持つ大手外国人弁護士事務所のベテラン弁護士の先生に、外国企業の場合、外国本社と同じように職務別あるいは職務・職位別の採用を前提に就業規則の人事異動(この案件では“配置転換”と言う項目名でしたが)の記載の変更を持ち掛けたところ、日本の雇用慣行などを理由に一顧だにされなかった経験があります。

とは言え、PMPでは新たに日本上陸した外国企業に対しては、就業規則の“配置転換”と、これに伴う雇用契約書の関連箇所については、日本型の記載例を紹介した上で、それとは異なる独自の工夫を提案し、一部採択されています。
最近では、ジョブ型雇用を取り入れようとする日本企業に対して、特定の職務について同様の工夫を提案しています。
専門職の契約社員就業規則は比較的ハードルが低く採用されるケースも多くなっています。

最後に厚生労働省の就業規則のモデル記載例をご紹介します。

(人事異動)
第X条  会社は業務上必要がある場合に労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2 会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3 前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

以    上