昨年の労働基準監督署の指導結果 1.賃金不払い 2.長時間労働 について

昨年の労働基準監督署の指導結果 1.賃金不払い 2.長時間労働 について

厚生労働省から昨年の労働基準監督署の活動結果が、1.賃金不払い(昨年 2022年1月~12月) 2.長時間労働(昨年度 2022年4月~2023年3月)、とそれぞれ発表されましたのでご報告します。

PMP見解

両者の内容を分析すれば、各社への警句は、労働時間管理に集約されます。
ご高承の通り、労働基準法では各社員の労働時間は使用者に管理-把握義務があります。例外は、管理監督者、裁量労働制と高度プロフェッショナル制の適用対象社員、事業場外労働制の適用対象社員でその日の労働時間が算定できない場合に限られます。
殆どの企業では労働時間の管理にシステムを導入済でしょうが、このシステム上の記録と実際の労働時間とで乖離がないのか?という点は、人事部門が適宜ランダムのチェックなどにより検証することを勧めます。
さらに言えば、就業規則では、是非、会社が認める労働時間、実働時間とは何か?という点についても記載すべきであろうと考えています。雇用契約の原則は、労働者には就労の義務、使用者には就労の対価としての報酬支払いの義務から構成されると言ってよいでしょう。この契約の理論からすれば、就労してない時間は報酬の対象にはなりませんが、労働基準法は労働時間の把握は使用者の義務であるとしています。そうであれば、就業規則に、使用者の認める労働時間の定義を定め、実際に就労していない時間は労働時間とはみなされず、報酬の対象から除外されるという考え方を明確にしておくことは大切であるように思います。

1.昨年の賃金不払いの結果

1 賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は以下のとおりです。
       (1) 件    数:           20,531 件
       (2) 対象労働者数:         179,643 人
       (3) 金    額:   121億2,316 万円

2 令和4年中に、労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い、解決されたものの状況
       (1) 件    数:            19,708 件    (96.0%)
       (2) 対象労働者数:          175,893 人    (98.0%)
       (3) 金    額:      79億4,597 万円(65.5%)

主な摘発事例を見ると

◆労働時間は、労働者自身が始業・終業時刻等をパソコンに入力する方法(自己申告制)により把握していた。

◆パソコンの使用記録や製造機械の作業記録と自己申告で残業時間として申請された時間に乖離が認められたため、労働時間の過少申告の原因究明と、不払となっている割増賃金を支払うよう指導された事例。

◆労働時間は、出退勤時刻を勤怠システム、残業時間は自己申告により把握していた。

◆勤怠システムによる出退勤時刻の記録と自己申告により残業時間として申請された時間に乖離が認められた事例。
やはり、実労働時間と労働時間の記録との乖離が放置されているケースが多いようです。ご注意ください。

最後に、労働基準監督署で取り扱った、事業場当たり100万円以上の賃金不払事案は
       ⑴  件              数:              1,335 件
       ⑵  対象労働者数:            61,958 人
       ⑶  金              額:     96億4,398 万円
となっています。監督指導結果等 の詳細は こちら をご参照ください。

2.昨年度の長時間労働の結果

この監督指導は、時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場や、長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場が対象となりました。
調査対象となる典型的なケースは長時間労働を原因とする脳・心臓疾患の労災の請求です。社員からの労災請求にあたっては使用者はこれに協力する法的義務を負っていますが、かかる場合、遅ればせながらも、人事は並行して当該部門の過去6~12か月程度の労働実態のチェックを速やかに行う等の実態調査をすべきです。

厚生労働省発表は以下の通りです。

(1)監督指導の実施事業場:                                                 33,218 事業場

(2)法令違反により是正勧告書が交付された事業場

1  違法な時間外労働があったもの:                              14,147 事業場(42.6%)
      うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が
             月80時間を超えるもの:  5,247事業場(37.1%)
             月100時間を超えるもの:3,320事業場(23.5%)
             月150時間を超えるもの:   752事業場(  5.3%)
             月200時間を超えるもの:   168事業場(  1.2%)
2  賃金不払残業があったもの:                                          3,006 事業場(  9.0%)
3  過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの:    8,852 事業場(26.6%)

(3)健康障害防止のため指導票を交付した事業場

1  過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したもの:
13,296 事業場(40.0%)

2  労働時間の把握が不適正なため指導したもの:           6,069 事業場(18.3%)

詳しくは、労働基準局監督課 過重労働特別対策室「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」 をご参照ください。

以    上