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2022.12.19
- 労働行政の動向
同一労働同一賃金に労働基準監督署が乗り出す!?

(今回の背景を整理すると・・・)
ご存じの通り、日本の実質賃金水準は失われた30年といわれる長い期間、低迷状態にありました。前安倍内閣時代以降は史上初めてのマイナス金利を含む強烈な金融政策でいくらか景気が刺激され雇用市場も多少は改善されたものの、日本経済を力強くけん引する波及性の高い新規成長産業が生まれず、その結果各企業の新規採用ニーズは有期雇用者を中心に対応されていました。日本は少子化傾向が続くため、少しでも景気が浮揚すれば労働市場はすぐにタイトになりますが、先行きの不安が解消されない限りは有期雇用者の採用を増やすことは経済合理性に合致する行動です。この間、賃金水準が相対的に低い非正規雇用者数が正規雇用者を上回る増加傾向が続きました。
厚生労働省などの賃金統計を見れば、有期雇用者と正社員の賃金データの加重平均として労働者の平均賃金が計算されるため、実質賃金水準は低下傾向を示すことになります。
来年度春闘に向けて、政府は今回も安倍内閣時代から始まった政府による財界への賃上げ圧力をかけようとしています。そのための新しい武器が同一労働同一賃金です。政府の圧力により賃金水準の相対的に低い有期雇用者の賃金アップが実現できれば、統計上の日本の平均賃金は改善されるはずです。
さて、日本における同一労働同一賃金は、日本以外のそれと比較すれば似て非なるものです。日本以外では、職務内容が同じであれば、性別、年齢、人種、宗教等の違いにかかわらず職務は同じ価値があるとみなして差別なしに同じ賃金が支払われるべきであるという考え方となっています。これを均等待遇と呼んでいます。対して、日本の場合は、正規雇用と非正規雇用間で、ある程度の格差はやむを得ないと容認した上で、その範囲内での同一賃金を目指すという均衡待遇という考え方が中心となっています。
注:日本の均等待遇は極めて限定された有期雇用者にしか適用されません。当然、賃金水準が相対的に低いと言われる中小企業で働く正社員の方々は、有期雇用ではないため最初から対象外となっています。
12月2日成立した第2次補正予算の厚生労働省関連を見ると・・・
加藤厚生労働大臣は、今月上旬の記者会見で、非正規雇用者の待遇改善に向けて、従来の各都道府県労働局の雇用環境・均等部門と全国の労働基準監督署との連携を強化するという方針を新たに打ち出しました。
これは12月2日に成立した第2次補正予算に盛り込まれています。
下図をご参照ください。その中で色付きの矢印
が今回の件となります。

まず、今回の件で全国で52人の労働基準監督官が増員されます。全国の労働基準監督署には約3,300人の労働基準監督官が配置されていますので、彼らも総動員される事もあるのかもしれません。
チャート図“施策の概要”には、「労働局が新たに労働基準監督署と連携し」とあります。“連携”とは労働基準監督署が具体的にはどのような動きをする事なのでしょうか?
またチャート図では、労働基準監督署が事実関係を確認するとあります。その上で、対象企業が選定され、パート・有期雇用労働法に基づく報告徴収業務、法違反の場合は労働局長による助言指導を通じて待遇是正を実現されるという流れとなっています。
従来の同一労働同一賃金の実施母体である労働局雇用環境・均等部門からは、矢印で対象企業選定というフローが結ばれていませんので、対象企業の選定までは労働基準監督署が行うと読み取ることができます。
労働基準監督署による同一労働同一賃金の事実関係の結果、対象企業が選定され、そこから従来と同様、パート・有期雇用労働法に基づく報告徴収 → 助言指導 → 不合理な待遇是正となるという流れになるのかもしれません。
ここからはPMP独自の調査とPMPの分析ですが、選定された対象企業に対して、労働基準監督官が同一労働同一賃金法違反として是正勧告書を出し、企業に是正を迫るような事は難しそうな雲行きです。またPMPが確認したところ、今のところ、本省より各労働基準監督署に対して、同一労働同一賃金についての調査に関する具体的な指示は何もないとのことですので、もう少し様子を見る必要はあるものの、過去の同様の事例を振り返れば、例えば同一労働同一賃金の実態を確認するための項目別のチェックリストのようなものが用意され、これを使って、それぞれの労働基準監督官が事実確認の調査を行うようなことは想定されます。その結果から対象企業が選定されその情報が労働基準監督署から労働局の雇用環境・均等部門に伝えられ、行政指導に繋がるという図式は十分にあり得ると考えています。
とは言え、圧倒的に人出が足りない労働局雇用環境・均等部門の指導官の現状を考えると、3,300人+新規増員の52人で成る全国の労働基準監督官が報告徴収から法違反の場合の助言や行政指導をも支援することもあり得るのかもしれません。引き続き行政の動向に注目しましょう。
何れにしろ、内閣主導の賃上げ圧力が、来年はパート・有期雇用労働法による有期雇用者の同一労働同一賃金の行政指導という形でも出現するようです。
賃上げは、生産性向上や収益増により実現すべきものですが、法を背景に非正規労働者の処遇改善により結果としての賃上げ効果を狙うというもののようです。
果たして、総理、厚生労働大臣の思惑通りの結果がでることになるでしょうか?
以 上
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