賃金のデジタル払い PayPayが参入
すでに以下のPMP Newsで案内の通り、昨年2023年4月から労使協定を締結した上で、同意した社員に対しては、厚生労働大臣が指定した資金移動業者の口座への賃金支払い=賃金のデジタル払いを行うことが解禁されました。
・2022年10月11日:2023年4月から賃金のデジタル払いが解禁の予定
・2022年12月5日:賃金のデジタル払い – 11月28日労基法施行規則が改正
PMPの観察では、昨年4月以降の各社の関心はさほど高くはないようでしたが、施行後1年を経過した今年8月に、PayPayが厚生労働省から初めての資金移動業者としての指定を受けました。目下、厚生労働省ではさらに3社を審査中とのことです。
この機会にデジタル払いの導入の手続きと必要な書式を簡単に整理しておきます。
1.賃金のデジタル払いを導入のための必要な手続きは以下のとおりです。
① 厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(指定資金移動業者)の確認
厚生労働省ウェブサイトに業者一覧を掲載
② 導入する指定資金移動業者のサービスの検討
・口座残高上限の設定金額
・1日当たりの払い出し上限の設定金額
・労働者や雇用主の手数料負担の有無と金額
・指定資金移動業者との契約締結の要否
③ 労使協定の締結等
④ 労働者への説明
労働者への説明は、雇用主から指定資金移動業者のみに委託も可。
⑤ 労働者の個別の同意取得
⑥ 賃金支払いの事務処理の確認・実施
確認すべきは例えば
・支払い方法
雇用主の資金移動アカウントを作成し、そこから労働者のアカウントに支払うのか、
現行の銀行振込と同様の手続き・手順を踏むのか。
・所定の賃金支払日に向けた雇用主の事務処理の期限
2.必要な書式
① 労使協定
賃金の支払方法に関する労使協定書(例)
[株式会社〇〇〇〇](以下「当社」という。)と労働者代表[△△△△]は、労働者の賃金の支払方法について、各労働者の同意を得た場合の銀行その他の金融機関の預貯金口座への振込み(以下「銀行口座振込」という。)、金融商品取引業者に対する証券総合口座への払込み(以下「証券口座振込」という。)及び指定資金移動業者(労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第7条の2第1項第3号に基づく厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者をいう。以下同じ。)の口座への資金移動(以下「資金移動」といい、「銀行口座振込」及び「証券口座振込」と総称して「口座振込等」という。)に関し、次のとおり協定する。
第1条 当社は、各労働者の同意を得て、各労働者の本人名義の口座に、口座振込等の方法により賃金を支払うこととする。
第2条 口座振込等の対象となる労働者及び賃金の範囲並びに口座振込等の取扱会社の範囲は下表のとおりとする。
労働者の範囲 当社に雇用されている労働者全て
賃金の範囲 定期賃金、賞与、退職金
口座振込等の取扱会社の範囲
銀行口座振込 [〇〇銀行、〇〇銀行]
証券口座振込 [〇〇証券、〇〇証券]
資金移動 [〇〇、〇〇]
第3条 当社は、各労働者に対し、各労働者の希望に応じ、次の各号に掲げる方法のいずれかにより賃金を支払うこととする。第2号の場合において、資金移動による賃金支払額の金額は、第1条に基づく同意の際に各労働者が申し出た額(指定資金移動業者の受入上限額の範囲内に限る。)とする。
(1)口座振込等のうちいずれか一つの方法による賃金全額の支払い
(2)賃金のうち一部は資金移動、残部は銀行口座振込又は証券口座振込による支払い
第4条 口座振込等による賃金支払いは、本協定締結後、[令和〇年◯月◯日]以降に到来する当社賃金支払日より実施する。
第5条 本協定の有効期間は[令和◯年◯月◯日]から[令和◯年◯月◯日]までとする。ただし、有効期間満了の[〇日]前までにいずれかの協定当事者から書面による協定破棄の通告がない限り、有効期間を[◯年間]延長するものとし、これ以降も同様とする。
[〇年◯月◯日]
[株式会社〇〇〇〇 代表取締役 〇〇 〇〇]
[労働者代表 △△ △△]
② 社員の同意書
注:なお、同意書(参考例)は、厚生労働省は英語、中国語、ベトナム語等も多言語で対応済
本記事の末尾の厚生労働省ページをご参照ください。
資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書
(使用者名) 殿
私(労働者名)は、資金移動業者口座への賃金支払いについて、以下の内容を確認しました。
□ 使用者から、賃金支払の方法として、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(以下「指定資金移動業者」という。)の口座(以下「指定資金移動業者口座」という。)のほか、預貯金口座(銀行口座等)又は証券総合口座への賃金支払も併せて選択肢として提示されたこと
□ 使用者又は使用者から委託を受けた指定資金移動業者から、裏面の留意事項について説明を受け、その内容を確認したこと
その上で、私(労働者名)は、資金移動業者口座への賃金支払いについて以下のとおり選択します。
□ 私(労働者名)は、以下の事項を確認した上で、指定資金移動業者口座への賃金支払に同意し、その取扱いは、下記のとおりとするよう申し出ます。
□ 私(労働者名)は、資金移動業者口座への賃金支払いに同意しません。(こちらを選択する場合、以下の記入は不要です)
記
1.指定資金移動業者口座への資金移動を希望する賃金の範囲及びその金額
※指定資金移動業者口座は、資金の受入上限額が100万円以下とされています。希望する賃金の範囲及びその金額は、裏面の留意事項「2.資金移動業者口座の資金」を確認の上設定することが必要です。
ア. 定期賃金 円
イ. 賞与 円
ウ. 退職金 円
2.労働者が指定する指定資金移動業者名、サービスの名称、口座番号(アカウントID)及び名義人(その他口座を特定するために必要な情報があればその事項)
指定資金移動業者名
資金移動サービスの名称
口座番号(アカウントID)
名義人
(その他必要であれば口座を特定するために必要な情報(例:労働者の電話番号等))
3.指定資金移動業者口座への支払開始希望時期
年 月 日
4.代替口座として指定する金融機関店舗名並びに預金又は貯金の種類及び口座番号又は指定する証券会社店舗名並びに証券総合口座の口座番号、名義人
※本口座は、指定資金移動業者口座の受入上限額を超えた際に超過相当額の金銭を労働者が受け取る場合、指定資金移動業者の破綻時に保証機関から弁済を受ける場合等に利用が想定されます。
金融機関店舗名又は証券会社店舗名
口座番号
名義人
年 月 日
氏 名
(同意書裏面等に記載)***
資金移動業者口座への賃金支払に関する留意事項
資金移動業者とは、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)に基づき、内閣総理大臣(財務局長に委任)の登録を受けて、銀行その他の金融機関以外の者で為替取引を業として営む事業者です。
【1.労働者の同意】
使用者又は使用者から委託を受けた指定資金移動業者は、労働者に対して、以降に記載する事項について説明しなければなりません。また、資金移動業者口座への賃金支払を行う場合には、使用者は、労働者に対して、賃金支払方法の選択肢として、現金又は資金移動業者口座以外に、預貯金口座(銀行口座)又は証券総合口座への賃金支払も併せて提示しなければなりません。仮に、使用者が、賃金支払方法として、現金か資金移動業者口座かの2つの選択肢のみを労働者に提示した場合や、形式的に選択肢を提示していたとしても実質的に労働者に資金移動業者口座への賃金支払を強制している場合には、使用者は、労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条に違反し、罰則の対象となり得ます。
【2.資金移動業者口座の資金】
資金移動業者口座の資金は、預貯金口座の「預金」とは異なり、為替取引(送金や決済等)を目的としたものです。労働者が資金移動業者口座への賃金支払を利用する際には、口座への資金移動を行う賃金額は、為替取引(送金や決済等)に利用する範囲内とし、送金や決済等に利用しない資金を滞留させないことが必要です。このため、資金移動業者の口座への資金移動を希望する賃金の範囲及びその金額(希望額等)については、労働者の利用実績や利用見込みを踏まえたものとする必要があります。また、希望額等の設定に当たっては、資金移動業者が設定している口座残高上限額(100万円以下)及び指定資金移動業者が1日当たりの払出上限額を設定している場合には当該額以下に設定する必要があります。
また、賃金支払が認められる資金移動業者口座は、資金の受入上限額が100万円以下となっています。このため、賃金支払に当たって口座の受入上限額を超えた場合の送金先の金融機関名又は証券会社名及びその口座番号等をあらかじめ登録しておく必要があります。仮に受入上限額を超過した際には、あらかじめ登録された預貯金口座等に資金移動業者が送金を行いますが、その際に送金手数料の負担を求められる場合があります。
【3.資金移動業者が破綻した場合の保証】
銀行等の金融機関が破綻した場合には、預金保険法に基づく預金保険制度により一定額の預金が速やかに保護されますが、賃金支払が認められる資金移動業者が破綻した場合には、預金保険制度の対象とはなりません。資金移動業者が破綻した場合には、資金移動業者と保証委託契約等を結んだ保証機関により、労働者と保証機関との保証契約等に基づき、速やかに労働者に口座残高の全額が弁済される仕組みとなっています。
【4.資金移動業者口座の資金が不正に出金等された場合の補償】
賃金支払が認められる資金移動業者口座の資金が労働者の意思に反して権限を有しない者の指図が行われる等の労働者の責めに帰すことができない理由により口座の資金が不正に出金等された際に、労働者に過失が無い場合には損失全額が補償されます。また、労働者に過失がある場合にも損失を一律に補償しないといった取扱いとはされず、少なくとも個別対応とされます。なお、労働者の親族等による払戻の場合、労働者が資金移動業者に対して虚偽の説明を行った場合等においては、この限りではありません。また、損失発生日から一定の期間内に労働者から資金移動業者に通知することが資金移動業者による補償の要件となっている場合には、当該期間は少なくとも損失発生日から30日以上は確保することとなっています。
【5.資金移動業者口座の資金を一定期間利用しない場合の債権】
賃金支払が認められる資金移動業者口座残高について、資金移動業者が利用規約等により有効期限を定める場合には、口座残高が最後に変動した日から少なくとも10年間は債務が履行できるようにされていることとなっています。
【6.資金移動業者口座の資金の換金性】
賃金支払が認められる資金移動業者口座の資金は、現金自動支払機(CD)又は現金自動預払機(ATM)の利用や預貯金口座への出金等の通貨による受取が可能となる手段を通じて資金移動業者口座の資金を1円単位で払出をすることができます。また、少なくとも毎月1回は、労働者に手数料負担が生じることなく資金移動業者口座から払出をすることができます。
なお、詳細は厚生労働省ページ: 『 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い)について 』をご参照ください。
以 上