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2026.10.13

  • 労働法改正
  • 実務シリーズ

カスハラ対応:顧客の権利は? – 今回のカスハラと求職者等セクハラの問題提起 その1

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)の防止措置が企業に義務付けられました。厚生労働省のパンフレットや専門家によるセミナーでも、カスハラから社員をいかに守るかが盛んに取り上げられています。
社員を顧客の不当な言動から守ることは、企業として当然の責務です。しかし、その一方で、企業が商品やサービスを提供する相手方である顧客の権利については、どこまで注意が払われているでしょうか。今回は、この点について考えてみたいと思います。

カスハラと従来のハラスメントとの調査の違い
これまでセクハラやパワハラでは、相談窓口担当が、被害者の社員に加えて、加害者である社員や周囲の目迎者である社員からも事情を聴取し、事実関係を確認したうえで、企業がハラスメントの判定を行いました。被害者たる社員が精神的苦痛を訴えても、客観的な事実関係からハラスメントの認定ができないケースも珍しくありません。被害者がこの会社の判断に納得しないこともありますが、会社として調査結果を伝え、必要に応じた注意喚起や再発防止措置を講じて、対応を終了させたりもします。

では、カスハラの場合は?
厚生労働省のカスハラ防止指針では、事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認することは求められていますが、加害者である顧客からの事情聴取については「必要かつ可能な場合」に行うことも考えられるという程度の位置付け。必須の手続とはされていません。
もっとも、顧客は企業の指揮命令下にある社員ではなく、調査への協力を強制できないことを考えれば、これは合理的な対応ではあります。
さらには、カスハラ対応の場合、ハラスメントに該当するかどうかの判断を待っていては、社員の安全を確保できない場合もあります。必要に応じて、速やかに担当者を交代させたり、管理職が対応を引き継いだりするなどにより被害を訴える社員の保護が義務付けられます。
しかし、ここでPMPが注意喚起したいのは、“社員を保護すること”と、“顧客をカスハラの加害者として認定すること”は別の問題であり、カスハラの企業の義務は “社員保護” であるという点です。

顧客は企業にとって取引の相手方でもある
購入した商品に不具合があり、顧客が販売店に強く抗議したとします。このクレームに対応した社員が精神的苦痛を感じ、会社にカスハラとして相談することもあるでしょう。
会社は社員を保護する義務を負います。しかし、顧客の苦情に正当な理由があるのか、企業側の対応に不手際がなかったのか、顧客の言動が社会通念上許容される範囲を超えていたのかについては、この厚労省が企業に義務付けた社員の就労環境の整備義務とは別に、この点は商行為の一方の当事者たる企業としては必ず確認しなければならない点だと思います。
さて、社員の訴えを受けて、顧客の言い分や自社の対応に問題がなかったかを十分に検討しないまま、顧客をカスハラの加害者として扱い、以後の対応を拒絶するとしたらどうでしょうか。
企業自身が苦情を受ける立場にありながら、自社社員の申告に基づいて取引相手をカスハラと判断し、その顧客の権利を制限することにもなりかねません。
そもそもカスハラ対策が、顧客からの正当な苦情を排除するための手段となってはならないはずです。

実は厚労省のカスハラ指針でも消費者の権利への配慮を求めている
厚生労働省のカスハラ防止指針にも、この問題への注意喚起が盛り込まれています。
指針では、カスハラ対策を講じる際には、「消費者法制により定められている消費者の権利や、障害者差別解消法による不当な差別的取扱いの禁止、合理的配慮の提供義務に留意し、顧客等との建設的対話を重ねるなど、事案に応じた適切な対応が必要である」としています。筆者は、消費者法制と障害者差別を一つの分に並列で記載する姿勢にも大きな違和感を覚えます。厚労省内の議論でも、障害者が障害特性によって説明や意思疎通に時間がかかる場合に、それを迷惑行為と受け取らないとの注意喚起がありました。これは納得できるものですし、カスハラ対応の際、接客する社員はこの点は留意しなければなりません。
さて、問題を企業と顧客との商行為に戻せば、今回のカスハラにより企業に社員を守る措置が義務付けられたからといって、顧客に対する契約上の義務や、正当な苦情に適切に対応する責務がなくなるわけではないという点は忘れてはなりません。これを考えれば、各企業のビジネスの進め方によっては、特にB to Cの企業ではカスハラで設置を義務付けられている相談窓口には、他のハラスメント全般と同様、人事に置くと同時に、カスハラについては営業などの顧客と直接かかわる部門にも置く必要があるのかもしれません。

社員保護と顧客対応を混同しない
企業がカスハラの相談を受けた場合、少なくとも次の三つは区別して考える必要があるでしょう。
第一は、社員の保護。危険や強い精神的負担が生じていれば、カスハラの認定を待たずに必要な措置を講じなければなりません。
第二は、カスハラに該当するかどうかの判断です。社員の申告だけでなく、顧客の要求内容、言動の経緯、客観的な資料などを踏まえて判断します。顧客への事情聴取が義務ではないとしても、可能であれば顧客の説明を確認することが適切な場合もあるでしょう。しかしながら、これは今回の法改正では必ずしも企業に必須として義務付けられているものではありません。
第三は、顧客に対する措置です。顧客の言動が悪質な場合には、対応の打切りや出入り禁止、取引停止なども考えられますが、その際には措置の必要性や相当性、契約上の義務などを慎重に検討する必要があります。今回、カスハラ防止にあわせて行われている厚労省の情報発信や、巷間行われている専門家諸兄のカスハラセミナーではこの視点がやや軽視されている(中には全く触れられていないセミナーも複数見受けられます)ように思えます。

被害を訴えている社員をカスハラ対策で顧客対応から外すことと、顧客からの苦情そのものを打ち切ることは同じではありません。
一方で、カスハラと認定できないとしても、被害を訴える社員の就業環境への配慮が不要になるわけではありません。実は、この点が筆者のもう一つの懸念になっています。セクハラやパワハラ等のこれまでのハラスメント対応でも、被害者の職場環境への配慮は忘れてはならないものですが、これまではハラスメントの事実認定が最優先され、膨大な時間をかけた企業のハラスメント相談窓口での調査の結果、ハラスメント認定にはいちゃらなかった場合の被害者社員の職場環境への配慮が、今回のカスハラと同レベルのものであったかについては疑問を覚えています。

とは言え、ここは強調したいのですが、今回のカスハラ対応が、ハラスメントと認定されなかった場合でも、訴えた従業員に積極的な配慮措置を講じるべきだとなり結果として「訴えた者が得をする」構造になってはならないと考えます。
この点について、企業には十分な注意喚起を呼び掛けたいと考えます。

以    上

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