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2026.10.27
- 労働法改正
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求職者等へのハラスメント対策:セクハラだけでよいのか、相談窓口は機能するのか – 今回のカスハラと求職者等セクハラの問題提起 その3

2026年10月1日から、求職者等に対するセクシャルハラスメントの防止措置が企業に義務付けられました。
今回の法改正を受けて、企業では採用担当者への研修や相談窓口の整備、ハラスメント防止規定の改正などが進められています。
しかし、今回の法改正については、企業の実務対応という観点から、いくつか気になる点があります。
なぜ求職者等へのハラスメントはセクハラだけなのか
日本には、ハラスメント全般を包括的に規制する法律はありません。
セクハラは男女雇用機会均等法、パワハラは労働施策総合推進法、妊娠・出産等に関するハラスメントは男女雇用機会均等法、育児・介護休業等に関するハラスメントは育児・介護休業法というように、それぞれ既存の労働法を根拠として、事業主に防止措置が義務付けられています。
いわば、従来から存在する労働法に、それぞれのハラスメント防止措置義務が後から付け加えられてきた構造です。
今回の求職者等へのハラスメント対策についても、根拠法が男女雇用機会均等法であることから、法律上の防止措置義務の対象はセクハラに限定されています。
それでは、採用担当者が求職者に対して威圧的な態度を取ったり、人格を否定するような発言を繰り返したりする行為はどうなるのでしょうか。また、妊娠や出産、育児、家庭環境などについて不適切な言動を行った場合はどうでしょうか。
もちろん、こうした行為が今回の求職者等セクハラ防止措置義務の直接の対象ではないからといって、企業として許容されるわけではありません。行為の内容によっては、別の法令上の問題も生じます。
この点について、厚生労働省も問題を認識していないわけではありません。
求職者等セクハラ防止指針では、求職活動等におけるパワハラに類する行為、妊娠・出産等に関するハラスメントに類する行為、育児休業等に関するハラスメントに類する行為についても、同様の禁止方針を併せて示すことが望ましいとされています。
しかし、これらは法律上の義務ではなく、あくまで望ましい取組という位置付けです。
行政が法令に沿って指針やパンフレットを作成することは当然としても、企業がそれに忠実に従い、「求職者等に対するセクハラを禁止する」という方針だけを策定したらどうでしょうか。
求職者から「パワハラは許されるのか」「妊娠や出産に関する嫌がらせは対象外なのか」と疑問を持たれても不思議ではありません。
法律上の義務を満たしていることと、企業のハラスメント防止方針として十分であることは、必ずしも同じではないのです。
求職者等に対しては、個人の尊厳を尊重することが基本ではないか
さらに考えたいのは、求職者等という、企業との雇用関係にない人たちを対象とする場合に、ハラスメントの種類を法律上の名称に限定すること自体が適切なのかという問題です。
例えば、性別による固定的な役割分担意識に基づく発言など、いわゆるジェンダーハラスメントも考えられます。これについては、厚労省でも問題意識を持っており、今回の求職者等のセクハラでもQ&Aなどを中心に企業には注意喚起を呼び掛けています。
ジェンダーハラスメント以外にも、容姿、年齢、国籍、家庭環境などに関する侮辱的な発言や、求職者の人格を否定するような言動など、個人の尊厳を損なう行為全般は、必ずしも法律で個別に名称が付けられたハラスメントに収まるものではありませんが、求職者に対して企業が採っても良いとされる言動ではありません。
採用する側と採用される側には、明らかな立場の違いがあり、採用結果への影響を懸念する求職者が、不適切な言動を受けても声を上げにくいという事情に企業は広く思いをはせるべきと考えます。
だからこそ、求職者等へのハラスメント防止方針を策定するのであれば、今回の改正法が定めるセクハラだけに留まるのではなく、パワハラに類する行為、妊娠・出産等に関する嫌がらせ、ジェンダーハラスメント、その他個人の人格や尊厳を侵害する不適切な言動を包括的に禁止することが適切だと考えます。
厚労省が示すハラスメント防止規定例については、規定体系としての完成度に疑問があることを、PMP Premium Newsでもすでに指摘しました。今回の求職者等セクハラについても、企業は法令の文言をそのまま社内規定に転記するだけではなく、法を超えて自社として採用活動等において何を禁止し、求職者等をいかに尊重するかという各社の基本方針を策定し明確に発信すべきと考えます。
求職者等への相談窓口の周知は、どこまで行えばよいのか
今回の求職者等セクハラ対策については、相談窓口の周知義務にも実務上の疑問があります。
従来のセクハラやパワハラでは、相談窓口の周知対象は基本的に自社の従業員でした。社内規定、イントラネット、研修などを通じて継続的に周知でき、対象者も把握できます。
しかし、今回は企業との雇用関係にない求職者等が対象です。
企業が人事部門などに相談窓口を設け、相談に対応できる体制を整えたとしても、その存在を社外の求職者等にどのように周知すればよいのでしょうか。
厚生労働省指針では、相談窓口の周知方法としてパンフレットやホームページ等による周知が例示されています。
確かに、法令上の義務を履行したかどうかを判断するには、企業が客観的に実施できる措置を基準とする必要があります。加えて、個々の求職者が実際に情報を読んだことまで企業に保証させるのは、現実的ではないと思います。
しかし、厚労省の指針だけで今回の法改正の実効性が実際に担保されるのでしょうか。
採用面接でセクハラ被害を受けた求職者が「会社に相談窓口があることなど知らなかった。ホームページにもそのような案内があるとは気づかなかった」と苦情を申し立てることはあり得ます。
求職者が必ず企業のホームページを見るとは限りません。
また、相談窓口の存在を知っていたとしても、「相談すれば不採用になるのではないか」と考え、利用をためらうこともあるでしょう。
企業が相談窓口を周知したと評価されることと、被害を受けた求職者が実際に相談できることは、別の問題
PMPとしては、採用ホームページへの掲載だけでなく、応募受付時や面接案内時のメール、会社説明会、インターンシップの案内など、求職者等との直接の接点を念頭に置いて複数の手段により相談窓口を知らせることをお勧めします。
さはさりながらも、こうした取組を行っても、すべての求職者が相談窓口の存在を認識し、利用できるとは限りません。この点を企業はあらかじめ認識しておくべきです。
今回の法改正は社外の求職者等を保護対象に加えたものです。従来の社内ハラスメントと同様に、企業が相談窓口を設置し、その存在を周知するという従来のハラスメントと同様の制度設計だけで果たして十分なのか、という疑問が解決しません。
採用担当の人事部門が相談窓口を兼ねてよいのか
求職者等への相談窓口については、もう一つ見過ごせない問題があります。
従来、企業のハラスメント相談窓口は人事部門が担当することが多く、採用業務も同じ人事部門が担当しています。ところが、今回の求職者等セクハラでは、その人事部門に所属する採用担当者自身がハラスメントの行為者とされる場合も考えられます。求職者からすれば、採否を決める立場にある人事部門に、同じ人事部門の担当者から受けたセクハラを相談することになるわけです。これでは、相談内容が採用選考に影響するのではないか、あるいは人事部門が身内の問題を公平に調査できるのかといった疑念が生じても不思議ではありません。
この点について、厚生労働省指針も認識済で、求職者等が人事担当者への相談をためらう可能性を認め、人事担当者以外の者を相談窓口の担当者に指定することや、外部機関に相談対応を委託することを例示しています。
しかし、これらは企業が選択できる方法として示されたものであり、企業の採用の仕組みによってはかかる相談窓口の設置手法を義務付けたものではありません。また、仮に相談窓口を人事部門以外に設けても、その後の事実確認や対応方針の決定に採用担当者が関与するのであれば、問題は残るとも思います。
さらには、相談した求職者が採用選考中である場合には、相談によってその後の採否判断が不当に影響されていないかという問題も生じます。これまではハラスメントの相談者には不利益的取り扱いは禁止されていました。求職者と言う社員ではない相談者に対して、「あなたは採用選考には不合格でしたが、あなたのハラスメント相談窓口への通報行為を不利益的にとり圧あったものではありません」 👈 どのようにしてこれを納得させるのでしょうか。言うまでもなく、企業には合理的な基準に基づいて採否を判断する自由があり、セクハラの相談をした求職者を、必ず採用しなければならないわけではありませんが・・・相談後に不採用となった場合には、「セクハラを訴えたために不採用とされたのではないか」と疑われる可能性があり、これを排除するのは難しそうです。
企業としては、相談内容の取扱いだけでなく、採用判断の公正性や、採否判断に至る経緯をどのように確保するのかについても検討しておく必要があるでしょう。
中堅・中小規模の企業で対応できるのか
こうした対応を中堅・中小企業でどこまで実現できるのかという問題もあります。
大企業であれば、人事部門以外の法務部門やコンプライアンス部門などに相談対応を委ねることも可能でしょう。
しかし、従業員数十人程度の中小企業では、人事と総務を少人数で兼務していることも珍しくなく、採用担当者と相談窓口担当者が同じ人物であることも十分考えられます。
そのような企業で、採用担当者自身がセクハラの行為者として申告された場合、誰が公平に相談を受け、事実確認を行うのでしょうか。
経営者自身が採用面接を担当している企業では、さらに難しい問題が生じます。
厚生労働省指針では外部機関への相談対応の委託も例示されていますが、中小企業にとって、常設の外部相談窓口を設けることには費用面や運用面の負担があります。
一方で企業規模が小さいからといって、法令上の防止措置義務が免除されることにはなりません。
PMPこの求職者等セクハラの法改正、実務への落とし込みのシミュレーション不足のように思えてなりません。
今回の法改正によって企業に求められる対応は、相談窓口の設置という一見単純な措置であっても、実際には容易ではないと思います。
法令上の義務を果たすことと、実効性のある制度をつくること
今回の求職者等セクハラ対策では、企業に新たな防止措置義務が課されました。
法では、対象はセクハラに限定、その他のハラスメントは主として望ましい取組という位置付けです。
相談窓口の周知についても、ホームページ等への掲載が例示されているものの、求職者等が実際にその存在を認識し、安心して相談できるかという問題が残ります。
加えて、採用担当の人事部門が相談窓口を兼ねる場合の利益相反や、中堅・中小企業における対応体制の確保など、実務上解決すべき課題も少なくありません。
法令に沿って指針を示すことが行政の役割であることは理解できます。しかし、企業が指針に沿って形式的に対応するだけで、今回の法改正が目的とする求職者等の保護が十分に実現するとは限らないのではないと思います。
企業の立場からいれば、労働法の改正に際して、改正法に沿い厚労省のパンフレット等の文言をCopyするという対応で済ませるだけでなく、常日頃PMPが警句として発信していますが、Complianceで思考停止せず、法令上の最低限の義務を満たすだけではなく、求職者等に対するあらゆる不適切なハラスメントを防止するとの方針を示し、相談窓口の周知方法や公平な相談対応の仕組みについて、それぞれの企業の実態に即した対応を検討することをお勧めします。
以 上
シリーズ記事(全3回)>
カスハラ対応:ハラスメント防止規定の役割と企業内で「顧客」の役割を担う担当者への注意喚起 – 今回のカスハラと求職者等セクハラの問題提起 その2
カスハラ対応:顧客の権利は? – 今回のカスハラと求職者等セクハラの問題提起 その1
関連記事>
10月1日からのカスハラ・求職者等セクハラを含んだハラスメント防止規定(簡易版)
10月1日からのカスハラ+求職者等へのセクハラ関連 その3 – 求職者等セクハラのQ&Aの主要ポイントを纏めました
10月1日からのカスハラ+求職者等へのセクハラ関連 その2 – カスハラのQ&Aの主要ポイントを纏めました。
10月1日からのカスハラ+求者等へのセクハラ関連 その1 – 4月24日、厚生労働省がリーフレットを作成しました。
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